てんびん座
裏山を駆けまわる
心の安息地に立つ
今週のてんびん座は、「蜩といふ名の裏山をいつも持つ」(安東次男)という句のごとし。あるいは、自分を自由にしてくれる魔法をみずからにかけていくような星回り。
ここに描かれている「蜩(ひぐらし)」やその鳴き声は現実のものではなく、回想のなかのものでしょう。それに、実際に「裏山」そのものを「いつも持つ」ことはできません。それをあえて「いつも持つ」と表現したところに、俳句らしい滑稽味や遊びの精神が生じてくる訳です。
故郷を離れて暮らす都市生活者にとって、故郷の自然や昔慣れ親しんだ風景というのは特別なものがありますが、この場合の「裏山」とは、そうした故郷の原風景の象徴であり、夏の終わりを告げる蜩の鳴き声が聞こえてきたとき、時空を超えて意識が結びついてしまう心の安息地なのだと言えます。
それは擦り切れるような日々の中で凝り固まった身体やこころを解き放つための一種の呪文的暗示であり、それを写真を胸に忍ばせるように持ち歩いているようなつもりでいることで、苦しい今を乗り切ろうとしているのかも知れません。
26日未明にてんびん座から数えて「遊び」を意味する3番目のいて座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分が最もいきいきとしていた頃と現在とを時空を超えて繋ぎなおしていくことで、ある種の生き返りを経験していくことができるはず。
無心であること
例えば、鹿は鹿である自分のことを否定したくなったりするでしょうか。おそらく、そんなことはないはずです。
秋になれば鹿は間もなくはじまる交尾期に備え、振る舞いを派手にしていく。オスはみなヒョーヒョーヒョーと鳴いたり、他のオスと角を突き合わせてメスの争奪戦を繰り広げたりする訳ですが、そういうあれやこれやの最中に、とつぜん自分のやっていることが気恥ずかしくなったり、ましてや「なんか馬鹿みたい」と自分を否定したりすることもないはず。
今週のあなたもまた、どこかでそんな鹿の姿と自然と重なっていくでしょう。いや、鹿そのものになりきっていくうちに、自然と考えることのなくなっていく、といった方が正確でしょうか。
それはいわゆる思考停止とは違って、むしろ自分を思考から自由にしていくプロセス。もっともらしい理屈をこねたり、こずるい保険をかけたりせずに、ただ無心で走り回っていくうちに、今週あなたは人間以前の動物たちの美しい白痴を一時的に取り戻していくことができるでしょう。
今週のキーワード
フロー体験