てんびん座
伝承と復活
受け継がれるべきもの
今週のてんびん座は、わらべ唄を取り戻した子供のごとし。あるいは、良くも悪くも受け継がれた記憶をからだの中に持っているということを感じていくような星回り。
現代社会が失ってしまったものの一つに、わらべ唄があります。子供のために歌う、子供用の唄で、その多くは親から子へ、祖父母から孫へと伝えられてきたものでした。
例えば、子供たちが学校の遊び時間に「せっせっせ」や「小豆たった、煮たった」をし、下校後には道で「通りゃんせ通りゃんせ」をしたり、「鬼ごっこ」をするのでも、鬼のいぬ間に洗濯じゃぶじゃぶとうたって鬼をからかっては遊ぶ。そんな光景は、もはや日本中どこを歩いても見かけることはほとんどないはずです。
さらに言えば、古い子守歌を歌える母親ももはやかなりの少数派でしょう。日本の子守唄の中で、おそらく最もよく知られた曲は江戸子守唄の一つをここに引用してみましょう。
ねんねんころりよ/おころりよ/ぼうやのお守りはどこへいた/あの山越えて里へいた/里のお土産(みや)に何もろた/でんでん太鼓に笙(しょう)の笛/貰うてやるからねんねしな
母親がうたう子守歌を聞くとき、幼い子供の心には、はるかな山を越えたところにある、笛や太鼓の音色が聞こえてくるような小さなお里が浮かんでいたのではないでしょうか。
19日にてんびん座から数えて「向こう側の世界との繋がり」を意味する11番目のしし座で新月を迎えていく今週のあなたは、そうした大人になった今ではすっかり忘れてしまっていた記憶がうっすらと甦ってくるような感覚に不意に直面していくことになるかも知れません。
隔世遺伝的復活
例えば、どの時代であっても異彩を放つ非凡な人たちというものは、忘れられた文化やその末裔が、その系譜も途絶えんばかりになった頃に突如ふたたび復活し、返り咲いた季節外れの徒花なのだと考えてみてください。
そして、いま現在ではすっかり奇妙で、風変わりに映り、歯にはさまった異物として自分でもどこか忘れさろうと必死になっている過去やつながり、他者や才能が、自分の内部や周囲に転がっていやしないだろうか、と考えを進めてみる。
そうした隠れた財宝を自身や身の周りに発見し、その価値を認めることができた者だけが、それを潰しにかかってくる時の移ろいに抵抗しながらそれを養い、護り、敬い、育てていくことができる訳です。
文化であれ生命であれ、何かひとつのものが長く続いてこそ、隔世遺伝的な復活劇が成立しえるのだということを今週はよくよく胸に刻んでいくとよいでしょう。
今週のキーワード
連綿と受け継がれてきたものとしての生命