てんびん座
極端な傾注
沈黙を深める
今週のてんびん座は、「雪明かり懐紙のやうに君の黙(もだ)」(田中亜美)という句のごとし。あるいは、もの言わぬ代わりにそれ以上の念を込めていくような星回り。
夜であっても積もった雪の反射で周囲が薄明るく見えることを「雪明かり」と言いますが、掲句ではそんな雪の白に、懐紙の白を重ねることで、「君」の沈黙の深さを想わせてくれます。
懐紙(かいし/ふところがみ)とは、お茶席で和菓子の下に敷かれる薄い和紙ですが、兵椀貴族の頃から様々な用途で使われてきた便利グッズであり、懐にそっと忍ばせてきた粋な小道具でした。
口では伝えられない言葉を書きつけるのか、渡し物を包むのか、何かをそっと拭おうとしているのか。
その沈黙が何を意味しているのかは分かりませんが、いずれにせよ深い沈黙が許される場や状況というのは、私たちの日常世界では意外に限られており、作者にとってはやはり「雪明かり」の他にはなかったのでしょう。
16日(日)にてんびん座から数えて「非言語的コミュニケーション」を意味する2番目のさそり座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、できるだけ沈黙が深まる場所を見つけて、そこに身を置いていくことをどうか意識してみてください。
バランスを傾ける
聖人というのは、すごく頭が良かったり、特別な容貌に恵まれたからなるのではなく、自らの信仰にのみ異常なほど忠実であったがゆえに聖人となった人たちなのだ、ということを今週のてんびん座は知らず知らず実感していくことができるかも知れません。
例えば、『カラマーゾフの兄弟』の登場人物の中でも、ひと際異彩を放つ劇薬のような男・イワンは次のように語っていました。
「この壮大な塔の構築によって今まで見なかったようなどんなにすばらしい光景があらわれるとしても、それがただひとりの子どもにただ一滴の涙を流させずにはあがなえぬものなら、ぼくはお断りするね。」
これはつまり、周囲の誰もが賞賛するような行為だとしても、ただひとりの子供を泣かせるものであるなら、すぐさま辞める。逆に、世界中の人が非難するような行為であっても、ただひとりの子供が笑ってくれるものなら、即座に実行に移すということでもあります。
今週のてんびん座は、かなり極端に、自分なりのこだわりにエネルギーをかけてみるくらいでちょうどいいのかも知れません。
今週のキーワード
イワンの馬鹿