てんびん座
気持ちの折り合い
「もし人類が滅んだら」
今週のてんびん座は、三島由紀夫の『美しい星』という小説のごとし。あるいは、自身の墓碑の草案をこしらえていくような星回り。
私たちは生きている限り、“思い込み”という自閉的な思考の壁の内側で踊るしかない。どんな美しい言葉を使っても、高らかな信念を掲げても、それが間違いや嘘である可能性とどこかで折り合いをつけていく他ない訳です。
おそらく『美しい星』という小説は、ピュアすぎる信念を持て余していた三島由紀夫が自身と折り合いをつけるために書いた作品なのでしょう。これはある日UFOを見たことで、自分たちが「宇宙人」であることに気付いた一家を主人公とするある種のSF小説なのですが、そこには人間や世界への憎悪と賛歌がこれでもかと詰め込まれています。
「人間という穢らしい存在よ、一刻も早く滅びてしまえ!嫉妬と誹謗に明け暮れて、水と虚偽なしには寸時も生きられぬ、人間なんぞ早く滅んでしまえ!汚れた贓物に満ちみちた、奇怪な皮袋をかぶった存在よ、もう我慢がならん、滅びてしまえ!消えて無くなれ!」
登場人物に託してこんな誰もがドン引きしてしまいそうな思いを吐露しつつ、一方、三島は「もし人類が滅んだら」という想定で次のような墓碑銘の草案を残してもいます。
「地球なる一惑星に住める人間なる一種族ここに眠る。彼らは嘘をつきっぱなしについた。彼らは吉凶につけて花を飾った。彼らはよく小鳥を飼った。彼らは約束の時間にしばしば遅れた。そして彼らはよく笑った。ねがわくはとこしえなる眠りの安らかならんことを」
立春を経て、10日(月)にはてんびん座から数えて「展望」を意味する11番目のしし座での満月を迎えていく今週のあなたもまた、人生とは、人間とは、といった問いにひとつの答えを与えんとしていくことが大きなテーマとなっていきそうです。
共有と癒し
人は誰かに内的真実を語ることで、初めて自分の苦しみや悲しみに気づくことができるものですが、それは語った相手のリアクションによって強化され、結果的にそこで深く癒されていきます。
悲しみや苦しみの種も周囲から養分をもらえなければ、未消化のままずっと心の内に残ってしまうんです。
そして、墓碑を刻んだり、それについて想像してみるということもまた、誰かへの「打ち明け話」であり、大地に種をまく行為に他ならず、ある種のセラピーなのではないでしょうか。
今週のてんびん座においても、これまで断片的だった思いが、語りを通して一つの感情へと練り上げられ、消化が促されていくといった事態を経験していくこともあるかも知れません。
今週のキーワード
人はみな少なからず宇宙人