てんびん座
声から物語へ
訪れの演劇
今週のてんびん座は、どこにも属さない旅の僧のごとし。あるいは、誰かの口から語られる<物語>と出会っていくような星回り。
能を、彼方から誰かがやってくる「訪れ」の演劇と呼び始めたのは、いったい誰だったかはともかく、これは非常に本質をついた巧い言い方です。
そして、そんな「訪れ」の主たる人物である「旅の僧」には、どこか今のてんびん座の人たちの姿が重なっていくように思います。
よそ者である「僧」は、どこからか舞台にやってきては、戦争で人を殺した過去に苦悶する武士、その恋と欲望ゆえに罪に問われる女たちなど、やはり彼方からやってきた亡霊たちと出会っていきます。
僧は彼らの声を聞き、ときに諭し、反論しつつも、次第にその声を受け入れ、彼の罪が許され、悲哀が癒されていくに従って、彼らの声はいつの間にか<物語>となっていくのです。
12日(木)にてんびん座から数えて「啓示的夢」や「ビジョン」を表す9番目のふたご座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな一つの物語が成立していく過程に直接関わっていくことが大切なテーマとなっていくでしょう。
オデュッセウスの対話
僧が出会う亡霊とは、あるいは、自分自身の心の声なのかも知れません。その意味で思い出されてくるのが、ギリシャ神話の英雄オデュッセウスの話。
その長い旅の途中、度重なる苦難に疲れ果て、絶望状態に陥ってしまった連れの兵士たちに彼は「現在の難儀もいつの日かよき思い出になる」と言って励ましたのだといいます。
しかし、その言葉は果たして彼らの慰めになったでしょうか。もし、いずれ苦難が思い出に変わるような幸せな日が来たとしても、それは一時的なものであり、人生はその本質において無惨なもの。
けれど、そのことを人間はなかなか受け入れられず、ないものねだりを繰り返してはその度に失望を深めつつ、苦し紛れに駄々をこねてしまう。おそらく、オデュッセウスもそうだったのでしょう。
ただし、今のてんびん座のあなたならば、そろそろ自分の痛々しさや、どうしようもない人生の残酷さを、そういうものだと割り切って認めていくことができるのではないでしょうか。
オデュッセウスのように
「耐え忍べ、わが心よ。おまえは以前これに勝る無惨な仕打ちにも辛抱したではないか」
とよく自分に言い聞かせ、自分の人生をひとつの物語に仕立てていくべし。
今週のキーワード
悲劇と神話は表裏一体