てんびん座
転調と再配列
大切な事は何度も起きるもの
今週のてんびん座は、「十人に鱸は刎ねる鰡は飛ぶ」(宇佐美魚目)という句のごとし。あるいは、思いがけない事態にもきちんと対処していくことで運気を好転させていくような星回り。
鱸(スズキ)も鰡(ボラ)も、成長に伴って出世するように名称が変わる出世魚であり、古来より「縁起が良い魚」とされて門出を祝う席など祝宴の料理に好んで使われてきました。
例えば『平家物語』には平清盛がまだ若い頃、伊勢に参宮するために乗っていた乗合い舟に大きな鱸が飛び込んできてそれを吉兆と喜んだという話が出てきますが、作者の場合はおそらく自分に舞い込んできた偶然にそうした故事を重ねることで、単なる偶然を導きの糸へと変えようとしているのでしょう。
とはいえ、多くの人は慌ただしい日常に追われるあまり、例えそれが吉兆であったとしても、兆しを兆しとして認識できずにスルーして見過ごしてしまうもの。
その意味では、今週のてんびん座もまた、自分の元に偶然飛び込んできた相手や出来事を「兆し」と見なして受け止めるだけの視野を持てるかどうかが問われていくのだと言えるかもしれません。
引用する私たち
厳密な意味でのオリジナルな経験なんてものは、現代においてはほとんど起こりえません。
はるか古の神話や伝承であれ、現代のコンテンツ作品であれ、そこに集合的無意識が介在する限り、何らかの元型を換骨奪胎して転調したり、表現や視点を再配列してずらしていくという営みの根は、思った以上にずっと深いものであるように思います。
「ひさかたの天知(あめし)らしぬる君ゆえに日月(ひつき)も知らに恋ひ渡るかも」(遥か彼方の天をお治めになっている君だから、いつの日果てるとも知らずに恋い続けることだ)
例えば、過去すでに亡くなった高市皇子(たけちのみこを現在の柿本人麻呂がしのぶこの歌)などは、どこか『君の名は。』や『時をかける少女』などの作品世界を彷彿とさせるものがありますし、タイムリープものであればオルフェウス神話、はては匿名の民間伝承などにまで遡ることができるはずです。
今週のあなたもまた、そんな古くて新しい素材へとそっと手を伸ばし、自分なりの「再発見」の瞬間へ向けて一歩ずつ距離を詰めていくような、そんな営みに人知れず手を出してみるといいでしょう。
今週のキーワード
本歌取りとサンプリング