てんびん座
闇を照らす知性を
「正しさ」は時に間違う
今週のてんびん座は、アガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』の主人公ジョーンのごとし。あるいは、自分の「正しさ」をめぐり、1歩踏み込んで点検していくような星回り。
てんびん座というのは、文字通り無機物である「秤(はかり)」がモチーフになっているように、その本質的に「間違うこと」を極端に嫌うところがあります。
それはうまく出ればセンスのある品の良さとなっていくのですが、一方でしばしば深い闇を抱えてしまうことも少なくありません。
例えば、冒頭に挙げた小説の主人公、良き妻であり、良き母として人生の半ばを迎えた主婦のジョーンは、その典型と言えるでしょう。彼女は旅先のバクダッドからロンドンへの帰り道に、汽車が遅れて砂漠の真ん中で立ち往生してしまうのですが、そこで様々なことを回想していくことになります。
夫がエリート職を手放して農業をやりたいと言いだした時はなんとか食い止めてきちんと導いたし、娘がちょっとどうなのって男を連れてきて結婚したがった時はやめときなさいと言ったし、そのおかげで夫も娘も今では世間に誇れる立派な人間として成功している。
確かに彼女は「正しい」。相手のためを思って、正しい方向へ人を導いている。けれど、どこかで何かが引っかかり、彼女は徐々に自分の今の境遇に疑問を投げかけていくのです。
本格的に春を迎えていく今週のあなたもまた、ふと立ち止まって自分のこれまでの立ち居振る舞いについて、そしてその背後にある現実について、想いを馳せてみるといいでしょう。
鈍い痛みとともに
ジョーンだって、もちろん自分が世間体ばかり気にしている傾向があることには気付いていたけれど、夫や娘の幸せを願ったのは嘘ではないという思いがあったはずです。
しかし、ジョーンの夫ロドニーは、作中でこんな言葉を心の中でつぶやくのです。
「君はひとりぼっちだ。これからもおそらく。しかし、ああ、どうか、きみがそれに気づかずにすむように。」
おそらく多くの読者の心のなかを、なんとも鈍い痛みが襲うシーンです。
確かに彼女には、自分の「正しさ」が必ずしも相手にとっての正しさになるとは限らないということを吟味するだけの余裕がなかったのかもしれません。あなたはどうでしょうか?
ほんの5分でも構いません。今週はどこかで自分の正しさを点検する時間をとってみてください。
今週のキーワード
本当の意味で誰かと共にいるために