てんびん座
縦糸と横糸をより合わせる
あの世からこの世を見るように
今週のてんびん座は、自分もまた人生という物語の一登場人物でありながら、それを作者の視点から眺めていくという、奇妙な喜びにみちた興奮を覚えていくような星回り。あるいは恋人や家族、友人らとの会話や交わりの中で、どこか自分を上空から見つめているような感覚が芽生えてくる、という言い方もできます。
人は決してひとりで生きている訳ではなく、同じ次元で生きる他者や、あるいは異なる次元に存在している何者かとの関わりの中で初めて存在することができます。今週はそうした水平軸と垂直軸の双方から、「自分はどんな生を生きているのか」ということを再認識させられていく時なのでしょう。
もちろんどちらの軸にも個人差は存在しますが、できるだけ自分が身近に感じたい存在を引き寄せていくことで、より充実した時間を過ごせるはず。
紙でできた人間の話
ここで一つの小説を紹介しておきたいと思います。
話の主人公フェデリコ・デ・ラ・フェはメキシコで幸せな結婚生活を営んでいましたが、妻の失踪をきっかけに、花摘み労働者としての生活を送り始めます。そんな中、フェデリコはある時、上空から誰かに見下ろされていることに気付き、それが「土星」であり、さらにその正体が「作者=サルバドール・プラセンシア」であるとやがて確信します。そして彼が自分たちの人生の行方を決定する権利を持っていることを知ったフェデリコは静かにしかし激しく憤り、自由を求めて立ち上がっていきます。
以下、サルバドール・プラセンシア『紙の民』より抜粋。
俺たちの運命をもう決めてるっていうのは誰なんだ、と俺は訊いた。フェデリコ・デ・ラ・フェは首を振って、はっきりとは分からないと言った。彼に言えるのは、それは空にいる何かか誰かで、姿を隠して、土星の軌道からのうのうと俺たちを見下ろしているということだった。その存在のせいで彼の妻は去り、永遠の悲しみが彼を苦しめ、火だけがそれを和らげてくれる。
(中略)
「たった今、俺がこれを話しているときも、俺たちは土星の物語の一部なんだ。土星に所有されてる。俺たちは見られて、聞かれてる。俺たちの人生が娯楽として売りさばかれてるんだ。でも戦えば、俺たちは主導権を手にして自分たちを守ることができるし、俺たちの人生を生きられるかもしれない」とフェデリコ・デ・ラ・フェは言った。
今週のキーワード
自分の人間関係を二軸(水平軸と垂直軸)からとらえ直す、サルバドール・プラセンシア『紙の民』、奇妙な喜びと興奮