てんびん座
願望ではなく自覚を
手放すことを考える
今週のてんびん座は、「サルトルを手ばなすために曝しけり」(岬雪夫)という句のごとし。あるいは、「学ぶ」と「捨てる」の表裏一体を経験していくような星回り。
高校時代、校長先生の長話に何度も登場した哲学者がサルトルだった。今やすっかり老後を迎えたいわゆる団塊の世代の人たちがまだ学生だった頃、フランスの哲学者サルトルは日本中の若者たちの聖典だったのだ。
作者は彼らよりももう少し上の世代だが、やはり青春の形見としていつまでも捨てられずに持っていたのだろう。
しかし、本当はもうとっくにサルトル熱は冷めており、そこから何かを学ぶこともなくなってしまった。いや、本当の意味で作者はサルトルから学ぶことはなかったのかもしれません。
「曝しけり」という詠嘆には、そんな懐かしさと諦めとが入り混じったような感慨が込められているように感じられる。
しかし、何かを学ぶということはただ知識を増やしていくことだけではなく、こんな風に自分をそっと捨てていくことでもある。今週のあなたもまた、自分から何を減らせるかをこそ考えていくくらいでちょうどいいだろう。
橋龍吾『自信』
「そう在れるのは、
そう在りたいではなく、
そう在ると思う者。
願望はどこまでも願望でしかなく、
魂の自覚とは別の回路。」
「まなぶ(学ぶ)」という言葉は、「まねる(真似る)」と同じ語源であり、「まねぶ」とも言われていたのだそうです。そのことからも分かるように、自分が真似したいと思う人のやり方を「まねぶ」ことから始めるのは、学びの基本。
ただこれは逆に言えば、どれだけ知識が頭に入ろうと、本質的に自分が「そう在る」と思えないような他者からは何も学べないのです。
願望ではなく自覚を。これは今週の合言葉と言っていいでしょう。
今週のキーワード
放せば手に満てり