
しし座
新しい地図を

実験してみよう
今週のしし座は、「パラフィン紙夏の名前をかんがへる」(宮本佳世乃)という句のごとし。あるいは、「結局は同じことの繰り返しになるに違いない」という思い込みから捨てていこうとするような星回り。
「パラフィン紙」「夏」「名前をかんがへる」という、一見無関係に並置されたような語群が、読者の中で不意に化学反応を起こしていくことを誘っているような句です。
「パラフィン紙」は飴や薬などを包んだり、古くからブックカバーとしても使われてきましたが、作者はここでつるつるとした半透明の紙(膜)を見つめながら、「夏」という既知の概念にあらためて名前を与えようとしています。
その腹の底には、典型的な記号イメージからはだいぶ遊離してしまった現実を抱えつつあることの疎外感であったり、それでもなお言い表すことのできない「わたしの夏」を何とか言葉にして留めておきたいという切実な詩情であったりするのかもしれません。
いずれにせよ、決して安易に情緒に訴えたり、目につく自然を讃えるわけでもなく、あくまで極限まで淡く、あいまいな輪郭のまま、自身がとらえているリアリティを未定形の記憶に封じ込め、そこから新たな詩作/思索を始めようとしているこの作品は、俳句という形式を借りた、きわめて現代的な実験装置と言えるのではないでしょうか。
すでに中身は失われ、今はただその紙だけが残ったパラフィン紙の表面を見ながら、この夏に何という名前をつければよいのかを考える。「祭り」でも「熱帯」でも「日焼け」でもない、もっとほのかで、よく冷えた名前が、きっとあるはずなのだ、と。
7月7日にしし座から数えて「ネットワーク」を意味する11番目のふたご座に「新しい発見」をもたらす天王星が移っていく今週のあなたもまた、手垢のついた意味と意味、人と人との結びつきをまずは大胆に切り捨ててみることから始めてみるといいでしょう。
空間地図から時間地図への切り替えを
例えば、地図というものはその広がりの上に、われわれを取り巻く空間の特性を克明に映し出し、さまざまなゆらぎをもつ線に彩られて地形は変化し、また、道路や線路、駅や建造物など人工的な都市は整った幾何学的なかたちを伴って地表の表情をひきしめていますし、そうした地図の通りに目的地にたどり着けることが社会においては正常さの証しということになっています。
ただ、そうして地図を眺める私たちは、空間の広がりだけでなく、無意識のうちにそこに時間の広がりも読み取っているはず。例えば、直線距離ではそう遠くないのに、いざとなると足が伸びず遠く感じる場所がある一方、そんなに近くないはずなのに、アクセスのよさも相まって足繫く通っている場所もあったりする。
ゆっくり歩くこと、小走りすること、ふいに佇むこと、汗をかいて階段をのぼりおりすることなど、空間を移動し、時間を切り開く人の動きが、空間地図とは別の表情を見せる「時間線」ないし「心の距離線」をつむぎ、「時間地図」を誕生させていく。そして、そこで私たちは、異様に引き寄せられ接近してしまっている“お気に入り”の領域がある一方、意外なところに遠く取り残された孤島のごとき“不可視”の領域があることに気付かされる。
その意味で、いくら物理的に近い距離にあるからと言って、心の距離線的に遠いところへ無理に自分を追い立てることは、ある種の異常事態であり、その逆もまた然りでしょう。
今週のしし座の人たちもまた、物理的には遠くても心の距離線的に近く感じられる場所へと、唐突に足を運んでみるといいかもしれません。
しし座の今週のキーワード
心の距離線で地図を描きなおす





