しし座
影の語り手
光源を立てる
今週のしし座は、『源氏物語』を書き進めていった紫式部のごとし。あるいは、みずからの内に潜む影をのこらず浮彫りにしていこうとするような星回り。
どんな時代にも、その時代に応じた一般的な「物語」というものがあります。昭和や平成の時代のサラリーマンが終身雇用を得てマイホームを築こうとしたように、平安時代の貴族男性ならまず官位の上昇ということがあり、女性であれば内裏に入って天皇の寵愛をうけて皇子を産む。少しでもそれが可能な男女は、そうした物語に沿って人生を生きようとしてきた訳です。
ただ、『源氏物語』を書き上げた紫式部は、そうした一般的な物語をそのまま生きようとはしませんでした。20代後半で貴族男性と結婚し、一女をもうけるものの結婚後3年ほどで夫と死別した彼女は、その現実を忘れるために物語を書き始めたのだと言います。
ただ、そこには彼女が自分という一個人の内界に多彩な分身たちがうごめいていることに気付いていたという背景があったように思います。彼女は自らの影に潜む一人ひとりをなまなましく描き出すために、まず相手となる男性が必要だと考え、文字通り“光源”としての光源氏という男性を立てて、彼と女性たちとの物語を次々に展開させていったのでした。
そしておそらく、物語を書き進めるうちに、作者の意図したとおりに都合よく動く人形であるはず光源氏が、作中で自らの意思を持ったようにこちらの意図とは無関係に振る舞い始め、彼女はそんな光源氏へ抵抗しつつ、ときに譲歩し、お互いを受け入れながら、筆のおもむく先へとたどり着いていったのではないでしょうか。
彼女は、いわばそうして筆を進めることで、一般的な物語をこえた偉大な物語を生きることができたのであり、だからこそ『源氏物語』は1000年経ったいまでも、まるで現代小説のような奥行きと深みとをたたえているのかも知れません。
10月29日にしし座から数えて「物語展開」を意味する10番目のおうし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自らの内部にうごめく分身たちを照らし出してくれる“光源”をまずは見つけ出していくべし。
悪い夢こそ味方につける
なんとなく車の後部座席に乗っていて、ハッと運転席を見ると、自分の嫌っている人間や、心から憎んでいる相手が運転していた。そういう夢をみたことはある人は少なくないはず。
こうしたビジョンは、自分が生きてこなかった半面である「影(シャドー)」の典型的なイメージと言われていますが、ある意味で、芸術家特有のひらめきというのは、そうした自分の中の嫌な部分、認めたくない側面とどう向き合っていけるかに懸かっているのだとも言えます。
ただし、だからとって今あなたが急にいい人になる必要はありません。そうではなくて、ああ自分のすぐ横で、嫌な部分、認めたくない側面の自分が意識のハンドルを握って運転していることもある。そういうこともあるのだと、なんとなくでも分かりながら、やっていけるかどうか。
小説家であれ何であれ、ひらめきを何かしら物語展開へと生かしていけるかどうかを分けるのは、そういうほんのちょっとした在り方の違いに他ならないのだということを、今週のしし座は心にとどめていきたいところです。
しし座の今週のキーワード
物語を面白くするために