しし座
左手は添えるだけ…
行い合わせのランデブー
今週のしし座は、『バナナ持ち洗濯機の中のぞきこむ』(しらいししずみ)という句のごとし。あるいは、なんとなく続けていけそうな習慣づくりを試みていくような星回り。
日常のスケッチをさらりと切り取ってみせた一句。バナナを食べることと、洗濯機を回すことは、本来ならまったく別々の営みではありますが、ここではそれらがごく自然に居合わせて、気付いたらなんだか一緒に和んでしまっている。
考えてみれば、こういうことは意図しない瞬間に、ひっそりと日常で起きているように思います。例えば、犬の散歩に行くことと語学の発音練習をすること、お風呂に入ることと句集を開いてパラパラと目に留まった句を鑑賞すること、自転車に乗ることと雲を見つけて眺めること。これは食べ合わせならぬ「行い合わせ」とも言えますが、どんなことであれ何かを反復的に続けていくには、一つのものだけやってるのでは続いていかなくって、必ずいい感じの遊びをもたせてくれる何かがセットで必要になってくるんですね。
そういう必然性があってこそ、もともとは別々にあったはずのそれらの行為たちも、自然と寄り添い手を取り合ってはそれぞれのランデブーを楽しむようになった訳です。
その意味で、6月26日にしし座から数えて「トレーニング」を意味する3番目のてんびん座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分なりの「行い合わせ」を試行錯誤してみるといいかも知れません。
チェシャ猫の関わり方
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に、アリスが木の上のチェシャ猫に道をたずねる有名な場面があります。
アリス:すみませんが、私はどちらに行ったらよいか教えていただけませんか。
チェシャ猫:そりゃ、おまえがどこへ行きたいと思っているかによるね。
アリス:どこだってかまわないんですけど
チェシャ猫:それなら、どっちに行ってもいいさ。
アリス;どこかに着きさえすれば…
チェシャ猫:そりゃ、きっと着くさ。着くまで歩けばの話だけど。
(河合祥一郎訳)
7歳の迷子の少女に対するものとしては、一見まったく取り付く島のない冷たい返答のように思いますが、あまりに真っ当に答えようとすると逆にナンセンスに変貌して笑いを誘うといういい例でしょう。
あるいは、もしかしたらチェシャ猫はアリスが本当は自分のしたいことがはっきりしていないのを見抜いていたのかも知れません。その状態で親切に道案内をしたり、お節介を焼いてしまえば、アリスの内発的な“したいこと”の現われをかえって妨げていたでしょう。
説明もせず、言い訳もせず、笑いだけを残して消えるくらいの関わり方が、アリスというまだ物事のかすかな萌しのような存在にとっては、ちょうど良かったのだとも言えます。ちょうど、掲句の「洗濯機を回す」に対する「バナナを持つ」がそうであったように。今週のしし座もまた、そうした自分なりの自然体の美学ということを改めて追求していきたいところです。
しし座の今週のキーワード
内発性を邪魔しない