しし座
衝撃と探索
喝!
今週のしし座は、『雨侵(し)みて巌(いわお)の如き大夏木(おおなつき)』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、自分より大きな存在に胸打たれていくような星回り。
「巌の如き」も「大夏木」もいかにもイカつい言い方で、普通なら自我肥大した有名人のように、あまりに大きく打って出たことが逆に鼻持ちならない誇張表現となってしまうところですが、そうはなっていないところが秀逸な一句。
木を岩に喩えたところは大胆ではありますが、頭に「雨しみて」とつけることで、それが単なる強がりや誇大妄想ではなく、木がみずからを包む目に見えない何かや、大いなる循環の一部に確かに触れたことで何らかの力づけを得たことが示唆されているように感じられます。
伝統的に、「雨」は先人や師の伝えてくれた“言葉”を象徴する際に用いられた表現ですが、掲句もおもわず感動してしまうような言葉に触れ、ずしんとお腹に熱いものが宿った様子を描いたワンシーンとも捉えられるのではないでしょうか。
そうすると、おのずと句の眼目が、夏木の大きさにではなく、雨がいかに岩全体を黒々と変えてしまうほどに深くしみ込んでいるか、という点にあることも理解されてくるはず。
同様に、7月20日にしし座から数えて「亀裂」を意味する9番目のおひつじ座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、いかに小さくまとまりがちな自己同一性を思い切って外していけるかが問われていくでしょう。
2つのレベルの間を流れゆく
人生とはつねにうつろいゆく風景のようなものと言えます。そしてたとえ猛烈な台風がやってきたとしても、ざわめき騒ぎ立つのはあくまで海の表面のみ。その下には深海が静かに広がっており、その逆も然り。どんなに激しい潮流の海であったとしても、海面を眺めていれば日の光を浴びてきらきらと輝く穏やかな瞬間も垣間見えるもの。
表層と深層、人生にはつねに2つの異なる顔がその時々の表情を浮かべており、小さくまとまることをよしとしないスピノザが大切にしようとした「自己と非自己とのあいだの境界線を引かずに、不断に考え続ける」という自己保存(コナトゥス)的な態度は、たとえばそうした2つの風景を行き来することができるような自分であり続けるということでもありました。
もし今あなたが表層の現実だけにはまり込んでいるのなら、すぐにでも探索に出かけましょう。あるいは、きらきらとした波間や、海中の神秘を思わせる相手がいるなら、彼らの懐に飛び込んでいきましょう。
しし座の今週のキーワード
非自己との交流