しし座
蛇は花なり、花は蛇なり
俳人の「蛇」
今週のしし座は、『ポケットの蛇放しけり四時間目』(泉田秋硯)という句のごとし。あるいは、自分だけでなく周りを驚かしていくためのいたずらを仕掛けていこうとするような星回り。
小学校の「四時間目」というと、給食を食べる前の最後の授業で、ちょうど集中力が切れたり、黙って椅子に座り続けているのにも飽きてくる頃合い。
そこで作者はそこらで捕まえてきた蛇を床に放すことを思いつき、教室を大混乱に陥れ、授業をめちゃくちゃにすることに成功した。そしてそのことを、ずっと後になってから思い出し、「あれは人生最大のいたずらだった」と回想しているのかも知れません。
もちろん、それはどこにでも蛇がいた昭和の時代だから可能で、許されたいたずらだった訳ですが、逆に今の子どもたちならポケットから何を取り出したでしょうか。スマホか、ゲーム機か、いずれにしても騒ぎを大きくする方向というより、外からの刺激を遮断して自閉的になる方向に傾きがちなのではないでしょうか。
そしてそれは子どもに限らず、大人であってもほとんど変わらないように思います。いつから大人たちの娯楽やレクリエーションは、喧騒やストレスをシャットアウトするためだけの時間になってしまったのか。少なくとも、他のどの星座よりも遊びや創造性にこだわりを持つしし座にとっては、そうした惰性的な状況には我慢ならないはず。
その意味で、5月9日に自分自身の星座であるしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、「四時間目」の静寂を破るためにも、アイデアを凝らし「蛇」やそれに類するものを解き放っていきたいところです。
世阿弥の「花」
能の大成者・世阿弥が著書の中で「花と、感興と、新鮮さと、これら三つは同じことである」と言うとき、それは掲句において解き放たれた「蛇」と限りなく近いものだったのではないでしょうか。
世阿弥にとっては、すべてのアートやその表現(=花)は、私たちのこころに新鮮さを呼び起こすものであると同時に、それがそのまま神事となって魂を鎮めてくれるものでなければならず、そうであってこそ人の心を深いところで動かすことができるのだと考えました。
これは逆に言えば、いくら才能や実力があっても、本人の持ち味が活かされる場所やタイミング、シチュエーションなどの演出を外してしまえば、新鮮で人の心を打つ花とはなりえないということでもあります。
自分の発する言葉や振る舞いが、誰かのこころを鎮める神事となるまで、生命力を練り上げ、そして一気に花咲かせていくこと。今週のしし座に与えられたテーマは、そんな風にも言えるかも知れません。
しし座の今週のキーワード
生き血の噴出としての蛇=花