しし座
無常と永遠のはざまで
懐古の情の深まり
今週のしし座は、『遅き日のつもりて遠きむかし哉』(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、過ぎ去った日々との隔たりと繋がりとを同時に感じていくような星回り。
あっという間に日の暮れていた冬の日にひきかえ、春になるといつまでも暮れることがないような日々となります。暮れそうで暮れきらぬ頃合いの気分はえもいえぬ不思議なものですが、特にすっかり咲ききった桜の花と薄明かりの空が重なって、桃色一色に染まるときなどは、どこか懐かしい場所へ時空が繋がっているような気になります。
作者もまた、やはり同じような薄明のなかで、こうして1日1日がつもり重なっては、かつて在りし日々がいつしか遠い昔となってしまったのだという実感が不意に湧いてきたのでしょう。
もはや手が届かなくなってしまった何かへの、この遠どおしさの感覚は唐の漢詩人・白居易の「往事渺茫(おうじびょうぼう)としてすべて夢に似たり、旧遊は零落して半ば泉(せん)に帰す」(過ぎ去った昔の事柄はみな夢のよう、古い仲間も半分はもう亡くなってしまった)という詩句を思い起こさせます。
実際、作者の師である芭蕉もまた、唐代の李白の詩を踏まえ『奥の細道』の冒頭を「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」から始めており、こうした漢詩趣味は作者も大いに受け継いでいたのでした。
同様に、4月13日にしし座から「継承」を意味する8番目のうお座で木星と海王星が重なっていく今週のあなたもまた、何か大切なものを失ってしまった喪失感とは裏腹に、知らず知らずのうちに別の何かを受け継いでいたことを実感していくでしょう。
心虚しく
「多くの歴史家が、一種の動物に止まるのは、頭を記憶で一杯にしているので、心を虚しく思ひ出す事が出来ないからではあるまいか」という小林秀雄の言葉を借りれば、今週のしし座はまさに心を虚しくして、そこで何かしら心の奥底から浮かびあがってくるような、かけがえのない繋がりを感じることができるかどうかが問われているのだと言えます。
横にいたら嬉しい、いなくなったら寂しい、そんな当たり前の感情を、多くの人はつまらない屁理屈で台無しにしてしまいますが、小林は先の言葉の直前で次のようにも書いているのです。
思ひ出が、僕等を一種の動物である事から救ふのだ。記憶するだけではいけないのだらう。思ひ出さなくてはいけないのだらう。(『無常という事』)
今週のしし座のあなたは、いったい何を思い出すのでしょう。たとえそこで浮かんでくるものがどんなものであれ、それこそが自分が人間であることの証しなのだと、しかと胸に刻んでいきたいところです。
しし座の今週のキーワード
過去からの贈り物としての無常に咲く花