しし座
一周まわってきた感
なつかしき絵巻物
今週のしし座は、『絵巻物拡げゆく如(ごと)春の山』(星野立子)という句のごとし。あるいは、自身の身の行く末を突き抜けた視点で眺め渡していくような星回り。
俳句では、冬のあいだ山が静まり返っている様子を「山眠る」と表し冬の季語としますが、春になって明るく彩りが出てきた山の様子を「山笑う」と表します。
厳しい寒さからようやく解放されて木々が芽吹き、虫や獣が冬眠から目を覚まし、桜や梅やあんずの花も咲いて、まるでそれ自体が生きもののように蠢いていく「春の山」を、掲句は「絵巻物」がゆったりと拡げられていくようだという。
作者はきっと、「春の山」とそれに照応しあう「絵巻物」とのあいだに佇んで、ひとしきり深い感動を覚えていたに違いない。そうして、ゆったりと遠くを眺めるまなざしと共に、作者のからだも自然と開いて広がって、いつしか春の山そのものと化していった。
それは朽ちた死体が土にかえり、やがてその上にゾッとするほど美しい花を咲かせ、そこに蝶が舞ってゆくような、どこか中世的な輪廻転生の相をも連想させます。
4月1日にしし座から数えて「体外離脱体験」を意味する9番目のおひつじ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、春の山から山へと吹きすさぶ一陣の風となったつもりで、身の周りに起きつつある変化変容に気付いていくことになるはずです。
Mr./Ms. Lonely
ポール・ボウルズの小説『シェルタリング・スカイ』は、邦訳では「極地の空」とされていますが、ここには空は何か巨きなものに護られているけれど、その下に生きる人間たちは極限に生きながらえているというニュアンスが込められています。
物語は戦争の終わった直後のニューヨークに住む、かつての活気を失った倦怠期の夫婦がアフリカ旅行を企てることから始まります。一応は夫婦関係の修復を目的に、夫の親友の男を1人伴って北アフリカのサハラの奥へと旅するのですが、うまく行かず、夫は途中でチフスに罹って死んでしまいます。そこから親友は別行動をとり、ひとり残された妻は運命に苛まれるような日々を送ったあと、作者に突き放されるように旅の最初の町であるアルジェに戻るところで終わる。そんな何とも言えない切ない読後感の残る小説なのですが、その冒頭部分を引用しておきたいと思います。
どこかしらある場所に彼はいた。どこでもない場所から、広大な地域を通って戻ってきたのである。意識の革新には、無限の悲しみへのたしかな自覚があった。しかしその悲しみは心強かった。というのは、ただそれだけが馴染みのあるものだったからだ。
今週のしし座のあなたもまた、ここに出てくるような「心強い悲しみ」を自身の音楽として、縦横無尽に生きていきたいところです。
しし座の今週のキーワード
奇妙で、悲しくて、それでいてほのかに明るい