しし座
思索の深まる方へ
苔むすわたし
今週のしし座は、苔をはやした岩石のごとし。あるいは、長期的なスパンで自分の来し方行く末を見つめていくような星回り。
最近は「ア・ローリング・ストーン・ギャーズ・ノー・モス(転がる石に苔はつかない)」と言うと、どうも良い意味で受け取る人が多いようです。つまり、「どんどん転職していけばヘンな垢がつかない」とか、「活発な活動をしている人は時代に取り残されることがない」という解釈ですね。
ただもともとの意味は、「職業を転々としていたら人間として一人前になれない」とか「仕事や住居を転々としている人は、成功せず金もたまらない」といった意味で、19世紀までは「苔の無いことは悪い結果である」として、「苔」を良いものだとする考えがイギリスには多く残っていたそうです。
日本でも苔は「悠久」の象徴であり、万葉集や古今和歌集などの古い歌集にも「苔むす」という言葉が使われているように、岩石にむした苔が年中緑を保って、幾年月を経ても新しく生々を繰り返し、絶えることがない様子に昔から日本人は親しみと同時に、そこに美を見出してきたのです。
特に森の暗い林床や不動の岩などに広がっていたり、樹齢を重ねた大木についた苔は、ひっそりとして地味ではありますが、理想的境地としての「森厳」「静寂」「隠逸」といった情緒を象徴し、「わび」「さび」などの美意識や禅の精神とも関わってきました。
2月8日にしし座から「社会的ゴール」を意味する10番目のおうし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分という岩に苔むすことを理想とし、苔の環境を整えながら、悠久の時間の流れと代々の連鎖を見つめてみるといいでしょう。
「苔むす」と「時熟」
若い頃というのは経験の厚みがまだありませんから、考えごとをするのでも「思索」というより「思考」という事に近いのだと言えるかも知れません。その意味で「思索」というのはだんだんと「自分が思った通りの人生」ではなくなってきてから初めて深まってくるもので、そうなってくると「人生について思索する」のではなくて、人生それ自体が自然と思索になっていることにハッと気が付いていくように感じられてきます。
ハイデガーという哲学者は、それを「時熟(じじゅく)」と呼びました。時間であるところの人生が、おのずと熟し、自分が存在しているということをめぐる謎の味わいが発酵してきて、得も言われぬ奥深い味がしてくる。人間の魂というのは、どうしてもそういうものに惹かれてしまうのです。そういう意味では、先ほどの「苔むす」という表現とハイデガーの「時熟」は同じことを言おうとしていたのかもしれません。
その意味で、もし今週のしし座が今後の方向性について何か判断に迷うことがあったなら、できるだけ思索の深まる方へという基準を念頭に置いてみるといいでしょう。
しし座の今週のキーワード
君が代は千代に八千代にさざれ石の巌(いはほ)となりて苔のむすまで