しし座
不意に語り始めた私は
こちらは9月13日週の占いです。9月20日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
吉本隆明の場合
今週のしし座は、吉本隆明の「じぶんとかわした約束」のごとし。あるいは、揺らぎの中にある<私>を出発点にして、自分の言葉で語っていこうとするような星回り。
1992年に出版された本の中で、詩人として言論活動を開始し、後年は思想家として知られるようになった吉本隆明は、当時二十歳だった終戦時を振り返ってこう書いている。
わたしには遠い第二次大戦の敗戦期にじぶんとひそかにかわした約束のようなものがある。青年期に敗戦の混迷で、どう生きていいかわからなかったとき、わたしが好きで追っかけをやってきた文学者たちが、いま何か物を云ってくれたら、どれほどこのどん底の混迷を脱出する支えになるかわからないとおもい、彼らの発言を切望した。だがそのとき彼らは沈黙にしずんで、見解をきくことができなかった。(中略)その追っかけはそのときじぶんのこころにひそかに約束した。じぶんがそんな場所に立つことがあったら、激動のときにじぶんはこうかんがえているとできるかぎり率直に公開しよう。それはじぶんの身ひとつで、吹きっさらしのなかに立つような孤独な感じだが、誤謬も何もおそれずに公言しよう。それがじぶんとかわした約束だった。(吉本隆明『大状況論』あとがき)
すべてが終った事後に、誤らない考えを明らかにするのは簡単だろう。しかし、そこに言論としての意味と価値が本当にあるかと問えば、必ず心にひっかかる何かがあるはずだ。
14日にしし座から数えて「投機」を意味する5番目のいて座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、たとえ誤りうるとしても、事態のさなかで、同時期に自分の口で語ることを大切にしていくべし。
解体新書の場合
通称は『ターヘル・アナトミア』。1773年に刊行された西洋の医学書を日本語で初めて紹介した意欲的な労作であり、同時にその翻訳作業自体が医学を超えて日本が西洋の文明との落差に気が付いてしまった大事件であり、ひとつの危機でもありました。
それ以降、日本及びその支配層は「科学技術」こそが自分たちを豊かにしてくれるものと信じて疑わず、そのまま「富国強兵」「殖産興業」の道を突き進み、結果的に戦争にまで到ってしまった訳ですが、それでも当時の人たちにとっては、解体新書の刊行はこれまで自分たちがその上に安住してきたシステムや体制をみずから壊して再建していくきっかけともなったのです。その意味で、今のしし座の人たちもまた、そうした当時の日本に近い状態にあるのだと言えるかもしれません。
これまでのなんとなく抱いていた違和感や、これではいけないというそこはかとない思いが、具体的な輪郭をもって浮き彫りになってくることもあるでしょう。くれぐれも、短期的に解決しようとしたり、ごまかして無視することのないよう、今週は心して過ごしていくこと。
しし座の今週のキーワード
転換点としての危機