しし座
新たな文脈に繋がるとき
「スン」とする体感
今週のしし座は、「洟かんで耳鼻相通ず今朝の秋」(飯田蛇笏)という句のごとし。あるいは、何でもないような感覚や気分の変化をこそ丁寧に拾い上げていくような星回り。
ある秋の日の朝、「洟(はな)」をかんだら耳と花とが通じたと感じたというだけの一句。もちろん、生理的にいえば実際に耳と鼻は通じている訳ですが、この句に詠まれているのは、そういう生理上の問題ではなくて、通常のことばでは説明しにくい内的な感覚から来たものでしょう。
これまでは意識の中枢に近い鼻の奥のどこかがくぐもって、呼吸も浅く、くぐもっていたところが、洟をかんだ拍子に、空気が耳の穴を通じて外まで突き抜け、意識が急に広がって、スンとした。
その清々しくも、どこかちょっとさみしいような微妙な感覚が、かろうじて「今朝の秋」という季節感の移り変わりを表わす言葉をよすがに、かろうじて身体にとどまったのだとも言えるかも知れません。
「こんな些細なことを歌にしてどうするんだ」と思う人もいるでしょうけれど、こうした感覚の変化と季節の移り変わりの間にただよう瞑想的な雰囲気こそが、むしろ俳句の真骨頂であるように思います。
9月7日にしし座から数えて「自己肯定感」を意味する2番目のおとめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした「スン」とするような体感の中に新たな希望を見出していくことになるはず。
既成の文脈を離れることの必要
村上春樹は1979年6月、『風の歌を聞け』で群像新人文学賞を受賞しデビューしましたが、その際、物語を当初は英語で書いてみたり、あるいは、いったん書いた物語をバラバラにし、シャッフルして再構成するという手続きを踏んでいったのだそうです。彼はそこで何をしようとしていたのか。それについて、彼自身の言葉で次のように述べています。
結局、それまで日本の小説の使っている日本語には、ぼくはほんと、我慢ができなかったのです。我(エゴ)というものが相対化されないままに、ベタッと追ってくる部分があって、とくにいわゆる純文学・私小説の世界というのは、ほんとうにまとわりついてくるような感じだった。(『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』)
つまり、日本社会に蔓延していた空気感だったり、無意識のうちに体に染み込んでいた文脈を、言葉の単位まで分解・解体し、その上で「スン」する感覚を模索するかのごとく、物語を紡いでいったのです。
その点、今週のしし座もまた、自分がこれから新たに生きようとしている文脈の端緒を、相応の苦闘の末に見つけていくことができるかも知れません。
しし座の今週のキーワード
生活世界の脱構築