しし座
ふたたび満たされるために
空っぽの器となること
今週のしし座は、エミリー・ディッキンソンの「Ample make this bed(広く創れこのふしどを)」という詩の一節のごとし。あるいは、いったん空っぽになっていくような星回り。
『ソフィーの選択』という映画の主人公はアウシュビッツから解放されたポーランド人女性で、移住先のニューヨークで恋に落ちる。英語がまだうまくしゃべれない彼女に、男が読んであげたのがエミリーの詩だった。彼女の心はその言葉に救われたのです。
「Be its mattress straight,(ベットのマットはまっすぐに)
Be its pillow round(枕も丁寧にふっくらとさせなさい)」
そうしてベッドを周到にメイクしなければならないほどに、世間の喧噪の誘惑は強く、私たちの精神を惑わせる。けれど、例え救いのない日々であっても、ベッド(眠り)を丁寧に整えて、深い眠りにつき、心静かに来るべき日を待とう。
それはまるで耳元で不意に聞こえてきた神様のささやきのようであり、それがたまたま男の口を借りて彼女のもとへと届いたことで、彼女はある種のメタモルフォーゼ(変態)を遂げてしまった訳です。
そしてそういう一瞬や偶然は、誰の人生においても起こり得るものだと思います。
31日にしし座から数えて「責任と立場」を意味する10番目のおうし座で、「突き放し」の星である天王星とともに満月を迎えていく今週のあなたもまた、世間的な善とか正しさに従わなければという意識をパッと手放していくことになるかも知れません。
ありのままの現実とのぞましい現実
「メタモルフォーゼ」は、オカルティズムの用語では「イニシエーション(通過儀礼)」へと置き換えられます。
と言うと、なんだか堅苦しいもののように聞こえるかも知れませんが、実際には人の手によって創作された詩や音楽や小説のほとんどは、完成度の違いはあれど作者が自分を変えるために創った何らかの「イニシエーション」の残滓なのです。
つまり、すべての創作者は文字や歌の中に「のぞましい現実」への足がかりを見出そうとしているのであり、創作以前と以後とで変態を遂げるための背景変換の儀式遂行こそが創作の本質なのです。その意味で、エミリーの詩も、彼女なりのイニシエーションだったのだと言えるかも知れません。
あなたが産み出し、創ろうとしている世界は一体どんなものなのか、エミリーがそうしたように、今週はまずはそのディテールから考えてみるといいかも知れません。
今週のキーワード
眠りとさなぎ