しし座
今ここへ向けて
とき(溶き/時)ほぐす
今週のしし座は、「負まじき角力(すもう)を寝ものがたり哉(かな)」(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、過去のしこりを「とき」ほぐしていくような星回り。
「負くまじき」というのは、「負くまじかりき」という言葉を縮めたもので、「負けるはずがないのに(負けたんだな)」という悔しさを滲ませたニュアンス。
ただ掲句のポイントは次の「角力を寝もの」で、「を」のところで時間が折れ曲がっている。「角力」に負けたのは過去ですが、「寝ものがたり」をしているのは現在で、2つの時間を複合させているのです。
負けるはずがなかったのになあ、という過去に囚われている思いがまだ残っていて、それを引きずっている訳ですが、それを現在のおそらく妻との「寝ものがたり」で溶きほぐそう、今できることに目を向け直そうとしているのでしょう。
そして、本人もそういう「今ここ」に戻ってこようとしている。
10日にしし座から数えて「過去の整理」を意味する12番目のかに座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、もうそこにとどまり続ける必要のない思いや感情から解放されていくための「ときほぐし」がテーマとなっていきそうです。
胸中に灯り続けてきたもの
寝物語の相手はなにも「妻」ばかりではなく、古い記憶そのものという場合あります。そして、誰の心の中にも時間を忘れて惑溺せずにはいられない“秘密の花園”のプロトタイプのようなものはありますが、それは不思議と死が身近に感じられる時や混乱と激動の最中にある時であるほど妖しいリアリティを持ってくるものです。
例えば、少年の頃に町でみた狂女や、逢魔が時に見た人さらい、廃屋、土蔵などについて書かれ、さならが古い記憶の玩具箱のような『昭和幻燈館』という本を書いた久世光彦にとって、“秘密の花園”と符合するであろう最たるものは「父の書斎で見つけた、見てはいけない秘密の本」でした。
内容について深くは判らないまま、ただ本棚の裏にそっと隠されていた一冊の本から漂う暗い情熱に心魅かれた体験こそは、その後作家としての彼の創作活動において間違いなく原点となっていたのでしょう。
もし今あなたが疲れ切っていたり、しんどさを抱えているならば、しし座にとって今週は、幼い頃にあなたの中で灯った小さな幻燈の先へと立ち返って、そこから再び自由を取り戻していく絶好の機会となっていくはずです。
今週のキーワード
時をかける力士