しし座
運命と運命感覚
忍び込みたる運命に
今週のしし座は「逢いし夜雪の香脱けぬ黒髪よ」(三好潤子)という句のごとし。あるいは、いつの間にか自分に染みついていた、何か誰かの存在にそっと気が付いていくような星回り。
髪に雪の香が染みるまで外で恋人と過ごしてきたということなのでしょうか。
作者は華やかで褪せやすい、弱る命をふりしぼって燃えた最後の花のような人。彼女の俳句は「艶なる世界」などとも言われますが、掲句の「雪の香」と「黒髪」の組み合わせには大人の情念よりむしろ少女の純な憧れのようなものが感じられます。
個人的に好きな俳人なので、それなりに彼女のことは知っているつもりになっていたのですが、今回たまたまページを開いていてこんな句も作るのかと不思議な感じがしたのです。
冷静に考えてみれば、家族だって実際には知らない一面がそれなりにあるのに、赤の他人であればなおさらそうであることは至極当たり前のことであり、私たちは袖を触れ合わせた他者の記憶の断片をつなぎあわせていくことで、やっと付き合いというものを成立させている訳です。
今週のしし座は、そうした本来の付き合いの成立条件をたどりなおしていく中で、自分の身にどんな匂いや癖が染みついているのかということに改めて思い当っていくことでしょう。
「運命感覚」を深める
三好潤子は、生涯にわたり病魔に侵され続けた人でしたが、一見どうにもならないような圧倒的な力に左右されていくとき、人はそれを「運命」と呼んできました。ただ、今週のしし座に求められているのはむしろ「運命感覚」という言葉に近いのかもしれません。
つまり、ただ「運命」と呼んでいるときというのは、実際にはそれが本当に運命なのか、偶然なのか、判断がついていないのです。その状態からは、自分や自分の人生についての確信めいたものは自分の内側からけっして湧いてきません。生きた心地がしないんです。
運命なんて言うと聞こえがいいですが、あれは「押し込み強盗」だと思ってください。ものすごくタチが悪くて魅力的な「ルパン」で、気を抜くと心まで奪われて腑抜けにされてしまいます。
生きた心地を取り戻すためには、運命に対抗して可能な限りジタバタすること、自由意志をもつひとりの人間として真っ向からやつに逆らい、上から目線で運命を書き換える“フリ”をすることで、「運命とネゴシエーションする」のです。
クラリスはウソ泣きすることで運命感覚を深め、彼女なりに生きた心地を取り戻しました。しし座にとって、強さとはそういうものなのかもしれません。
今週のキーワード
クラリスの運命感覚