ふたご座
ショートコント「日常生活」
これは仕事じゃなくて、生活なんだ。
今週のふたご座は、「単に日々やっていること」のごとし。あるいは、毎日やりたいことを、きちんとやっていこうとするような星回り。
「ワーカホリック(仕事中毒)」という言葉の使われ方を見ていると、人びとがどんなに「仕事」という言葉に含まれるもろもろのことを憎んでいるか、にも関わらず、「中毒」という病気めいた言葉とセットでないとそれを無暗に中断したり、休みをとることが難しいかということをよく現わしているように思います。
しかし、進化生物学者で作家のスティーブン・J・グールドのあるインタビューを読んでいると、私たちは決して「仕事をしすぎている」のではなく、むしろ「仕事」という固定観念に囚われ過ぎているのかも知れないという疑念が湧いてくるはず。
私は毎日仕事をする。週末も、夜も……それをはたから見ると、“仕事中毒”という現代的な言葉で表現できるかもしれないし、“強迫観念にとりつかれている”とか、”破滅的”といえるかもしれない。だが、私にとって、仕事は仕事じゃない。単に日々やっていることで、それが私の生活なんだ。家族ともじゅうぶんな時間をいっしょに過ごし、歌もうたうし、野球の試合もみにいく。フェンウェイパーク球場には年間予約席ももってるから、しょっちゅう行ってる。つまり、単調な生活を送っているわけじゃない。だが、基本的には、終始仕事をしている。テレビはみない。だが、これは仕事じゃない。仕事じゃなくて、生活だ。毎日やっていることで、やりたいことなんだ。(メイソン・カリー、金原瑞人・石田文子訳『天才たちの日課―クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々―』)
私たちが、何もかも「仕事」として呼んでそこにはまりこむことを「中毒(ホリック)」すなわち異常状態と呼ぶのは、それらがどこまでも“押しつけられたもの”でしかなく、みずから選び取り、親しんでいる「生活」にまで至っていないからなのではないでしょうか。
8月5日にふたご座から数えて「基盤」を意味する4番目のおとめ座に金星が入ってゆく今週のあなたもまた、どんな仕事をしたいかではなく、どんな生活をしたいか、そしてそこにどれだけ、またはどんな類の「仕事」が含まれているか、という仕方で、自身のQOLの向上をはかっていくことがテーマとなっていくでしょう。
「オブジェクティブ・コント」
稲垣足穂の処女作にして代表作である『一千一秒物語』は、四辻を横切った影がふいに消えたとか、誰もいないはずの部屋にシガーの香りが微かに残っていたとか、よく見ると月が金貨だったとか、そういうちょっとした微妙な出来事や気配のみを描いた数行の短い文章を集めた作品なのですが、それを「オブジェクティブ・コント」と呼んだ人がいました。
オブジェクティブの反対語はサブジェクティブ(主観的)で、そういう個人的な感情が一切入っていない、というより個人的であることができない領域では、すべてがある種の「コント(寸劇)」になるという訳です。
私たちは得てして仕事を変えたとか、離婚したとか、そうでなくても、旅をしたり、特別な人物と出会ったりという大げさな出来事のなかでこそ、何か人生が意味ありげになっていくものと考えがちですが、あんまりそうして意味を追い求めすぎると、人生というのはだんだん窮屈になっていきますし、人間もどこか不機嫌になっていくのではないでしょうか。
その点、「オブジェクティブ・コント」は人間を意味から解放し、どうしたって近くに寄り過ぎた目のやりどころを、なだらかに元に戻してくれるのだとも言えるかも知れません。
今週のふたご座もまた、ひとつ寸劇を楽しむくらいのつもりで過ごしてみるといいでしょう。
ふたご座の今週のキーワード
いろんな形のオブジェたち