ふたご座
養生即芸術
春を迎えて
今週のふたご座は、『去年今年君は普通に良い名前』(外山一機)という句のごとし。あるいは、いのちが芽吹き花咲くように働きかけていこうとするような星回り。
「去年今年」は旧年から新年に移ってゆく感じを表す季語なので、厳密には使いどころとして微妙だが、雨水から啓蟄へと節気が変わって、本格的に万物が芽吹く春を迎えていく今の時期にもなんとなく使ってみたくなる言葉だ。
しかし、「普通に良い名前」とわざわざ言うからには、いわゆるキラキラネームの子どもを親戚の集まりか何かで見かけての一句なのかも知れない。作者もまた、これまではしっくりきていなかった。それが、不意に受け取り方が変わった。
青虫が蝶(てふてふ)に変身して、夢見るように舞い始めた途端に、それまでどこか目の前の実体に対して付いている名前がずれているように感じられていたのが、ぴたりと一致してくるということもある。同じことが、人の身に起きたってなんら不自然な話ではないし、むしろ自然なことだろう。
命名とは、未来の安寧と幸福を願うことほぎに他ならないが、それがいつどんな形で発動するかは、誰にも分からないものだ。だからこそ、既に名をつけられた当人に対しては、いつかその願いが発動し、百花のごとく咲きわたることを願って掲句のように呼びかけてあげることが一番の後押しになるに違いない。
3月4日にふたご座から数えて「他者との関わり方」を意味する7番目のいて座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、そんな風に変わりゆく季節の波にのってみるといいかも知れません。
人間の向上とは何か
「整体」の産みの親である野口晴哉(のぐちはるちか)は、語録集『偶感集』に収録された「雨」という断章の中で、「人間の生きているのは苦しむ為だ。その苦しむことが楽しくなる迄、生きていることを養生という」と述べています。
これに対しては、犬や猫や他の生き物はみな苦しければ逃げるのに、人間だけがそうしないのは本能が壊れているからだという指摘もあるかも知れません。しかし野口は関東大震災を経験していましたから、そのことはよく分かった上で上記のように述べたのでしょう。そして、こう続けるのです。
人間は自分の心身が苦しいことだけが苦しいのではない。他人の苦しみにも苦しむ、世界の一切の動きにも苦しむ。(中略)動物の苦しみから人間の苦しみへの展開こそ、人間の向上だ。その苦しみに徹し、苦しむことが楽しくなる迄、苦しむことだ。
今週のふたご座もまた、自分が関わる誰か何かが、まさに「苦しむことが楽しくなる」よう、何に力を入れ、どこから力を抜いたらいいのか、軌道修正をかけていくことがテーマとなっていくのだとも言えそうです。
ふたご座の今週のキーワード
「苦しむことを拡げていく」養生は、芸術において余白を拡げるための創造的努力へと結びついていく