ふたご座
重力への挑戦
「媚態」に冷や水
今週のふたご座は、「媚態の霊化」のごとし。あるいは、自分の抱えている葛藤や矛盾から目を背けずに、それがひとつの美学に達するまで突き詰めていこうとするような星回り。
九鬼周造が長きにわたるヨーロッパ留学時代に「寂しさ」と「恋しさ」とは何かということをしきりに考えた末、帰国後に書き上げた日本民族に特有の美意識論が『いきの構造』でした。
ここには例えば、「理想主義の生んだ「意気地」によつて媚態が霊化されてゐることが「いき」の特色である」なんてという一文が出てきますが、ここで言う「意気地」というのは一種のコンプレックスなんですよね。
つまり「女として(男として)こうありたい」という理想に対してどこか鋭い緊張感を抱いていて、それが意中の相手にただただ甘くなったり、ベタベタしてしまうような「媚態」に冷や水を浴びせ、精神的に高まったところへ引き上げていくことを、「媚態の霊化」と言っている訳です。
こうやってきちんと矛盾や葛藤を前提として「いき」という俗な美意識を語っているところなど、やはり理論というものは実生活に浸透されてはじめて力が出てくるもので、口先だけでカッコよく決めてもしょせん頭の中の自己満足なのだと思い知らされる気がします。
その意味で、11月8日にふたご座から数えて「美学」を意味する6番目のさそり座後半に太陽が入り立冬を迎えていく今週のあなたもまた、自分なりの思いをどれだけ「いき」に表していけるかどうかが問われていくでしょう。
コウルリッジの『小夜啼鳥(ナイチンゲール)』のメタファー
ギリシャ神話で義理の兄にあたる王テレウスに凌辱された上、そのことを誰にも話さないよう舌を切られた娘ピロメーラーが、囚われ先から逃げ出すためにナイチンゲールに変身したという悲劇から、ナイチンゲールは西洋ではその鳴き声は“悲哀と憂鬱”を象徴するものとされてきました。
ところが、イギリスロマン派詩人の先駆となったコウルリッジは『小夜啼鳥』という詩において、その伝統を見事に転覆させ、この鳥を「歓喜(Joy)」の象徴として言及しました。
ほら聞いてごらん、小夜啼鳥が歌い出したぞ、
「調べ妙にしていとも憂わしげな」鳥が。
憂わしげな鳥だって?根も葉もないことを!
自然界に憂わしげなものなど何もない。
鳥は波瀾に満ちた人間の複雑な恋愛感情によってもたらされる憂鬱とは無縁であり、彼らはただ突き抜けた明るさでもって恍惚と囀るのみ。「男」の立場からも「女」の立場からも自由な、異なる次元に立つ存在の不思議さ。コウルリッジはそこにこそ、詩人としての自身の理想を重ねていたのではないでしょうか。そして今週のふたご座にも、そうした突き抜け感がどこかしらに出てくるかも知れません。
ふたご座の今週のキーワード
詩的ストイックさ