ふたご座
土がつく
救済の過程
今週のふたご座は、『負くまじき角力を寝ものがたりかな』(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、行き着くべきところに行き着いていこうとするような星回り。
「角力(すもう)」は秋の季語。「負くまじき」というのはあまり聞いたことのない言葉ですが、おそらく「負くまじかりき」を縮めたのでしょう。負けるはずがないのに、自分は負けてしまったんだなあ、と。
「寝ものがたり」とありますから、それを寝床に入って、寝るときに言っているわけです。それを、妻か恋人なのか、寝床を共にした相手がじっと聞いてくれている。
だから、この句はただ角力の勝ち負けのことを言っているんじゃなくて、そういう家庭の仲睦まじさであったり、敗れた側の人間の思いがどうやって昇華されていくのか、という救済の過程を描いているのだとも言えます。
「負けるはずなかったのに…」という悔しさだとか、情けなさ、現実の受け入れがたさだとかが心の中で暴れていて、ぶつくさ言っているんだけれど、それが「いやー、あんたは上手かったよ」とか「あんたの勝ちだと私は思っているよ」という一言でサッと救われる。逆に、いくら時間が経ったとしても、一方的な言い募りや独り言で終わっているうちは人は決して救われないし、現実を受け入れることもできないんですね。
9月23日にふたご座から数えて「再誕」を意味する5番目のてんびん座への太陽入り(秋分)を迎えていく今週のあなたもまた、できるだけ自然なかたちで欲しい相手からの慰めや呼応の言葉を引き出していくことがテーマとなっていくでしょう。
第二の母から加護を得る
例えば、神話の英雄や半神たちには、幼い頃に何かの事情でいったん親に捨てられたことのある人物が異常に多いですが、これは生活条件の厳しかった古代においては、どこの国でも捨て子は必要悪だったという事情半面、あとは不肖の子や虚弱児を山の中腹や洞窟などの「母なる大地の子宮」に委ねることで産土の加護を得られるようにという神頼み半分といったところだったのではないかと思います(深山すぎれば死んでしまう)。
「土がつく」とは相撲の世界では負けることを意味しますが、その後を生き延びた捨て子たちにとっては第二の母としての「大地の力」を宿したことに他ならず、その加護によって尋常ではない働きが可能になっていった訳です。思えば、ギリシャ神界最大の神であるゼウスからして、誕生と同時に父神の目を逃れるために、クレタ島の山の洞窟に遺棄されて、大地ガイアのふところに委ねられて育った子でありました。
彼らは自分の命運を母以外の誰かに委ねるという経験を早期にしていくことを通じて、自然と“手ずから”力を借りる術を身に着けていったのかも知れません。そして今週のふたご座にとっても、そうした自分に必要な手助けを適切な仕方で借り受けていくことは大事なテーマとなっていくはずです。
ふたご座の今週のキーワード
秋の夜長に寝ものがたり