ふたご座
周辺に転がり落ちて生まれたの
敗けの歴史を背負う
今週のふたご座は、「敗け派」の人たちのダイナミズムのごとし。あるいは、あえて“からめ手”からの攻めを担っていこうとするような星回り。
からめ手とは、人々の注意があまり向かない裏門や裏手のことを指しますが、そのことを文化人類学の立場から説いたのが山口昌男でした。山口は、社会構造を日常的な「中心」と非日常的な「周縁」とに分け、両者の葛藤から文化の力強さは生まれるという「中心と周縁」論を説き、負けは勝ちの、よそ者は共同体の、異常は正常の、闇は光の本質を反映的に深くあらわしており、その物語の深部を示しているのだと主張したのです。
例えば、明治元年(1868)に始まった薩長を中核とした新政府軍と旧幕府軍と東北諸藩の連合軍が戦った日本最大の内戦である戊辰戦争で破れた諸藩側の出身の人物は、藩閥や軍閥などの階層秩序からことごとく排除されたことはよく知られていますが、山口の『「敗者」の精神史』の「敗者の生き方」という章では、さまざまな人物を取りあげることでその後の近代日本の歴史を逆照射していきます。
例えば東条英機の父英教(ひでのり)も岩手藩出身であったため、主流から排除され、せいぜい陸大教官どまりの中将、理論家としての枠に閉じ込められる生涯を送った。このような場合、子弟の反応は一般的に、やや反体制の側に赴くか、逆に、さらに体制に忠誠を尽くすことによって父祖の汚名をそそごうとする方向に赴く。東条英機の場合は後者の途を執った。そして、それは、昭和日本に破滅的な結末を与えることになった。
山口は他に、日本初の近代的国語辞典である「言海(げんかい)」を編纂した大槻文彦や、早々に官職を引退して自由奔放な知識人としての生き方を貫いた兄の大槻如電、日本浮世絵協会の創設に尽力し明治文化研究会の設立に関わった文化史家の石井研堂に加え、同志社大学の創立者としても知られ、初期の京都府政を初代の府議会議長として指導した山本覚馬などを取りあげた上で、そうした「敗け派」の人たちの功績こそ、日本近代に独特の陰翳(いんえい)を添えてきたのだと喝破しました。
28日にふたご座から数えて「がんばりどころ」を意味する3番目のしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、みずからの「負け」「よそ者」「異常」をきちんと背に回した上で、自分なりの活動のダイナミズムに落とし込んでいきたいところです。
「夜の世界」の住人として
例えば、破れ気味の赤提灯の店であれ高級なクラブであれ、「夜の世界」には「昼の世界」に居場所を現に失っているか、かつて決定的な仕方で失ったことがある人たちが比較的多く集うのかもしれません。
客にしろ店側にしろ、そこには欠落を抱えた者同士の気遣いのようなものがある種の「匂い」として漂っていて、そういう匂いをかぐと人間どうしても格好のつけようがなくなるというか、たとえ格好をつけていたとしても、そのポーズの裏にある深い悲しみが滲み出てきてしまうはず。
表舞台で順調に過ごしているときというのは、なかなか自分の欠落には気付けないものですが、理屈では説明のできない運命に絡めとられてしまったり、何かを仕出かしてしまったり、また、ほんのちょっとした出来事がきっかけとなって、欠落と向き合わざるを得なくなってしまったとき、人間はある意味で「夜の世界」の住人としての道を歩み始めるのかも知れません。
その意味で、今週のふたご座もまた、そうした「夜の世界」に居心地のよさを感じてしまう人間のひとりとしてこの世をさすらっていくべし。
ふたご座の今週のキーワード
夜の住人の匂い