ふたご座
不可解さの深奥へ
解きほぐせない感覚の再確認
今週のふたご座は、『花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ』(杉田久女)という句のごとし。あるいは、いつまでも溶解しない何かに沈潜していこうとするような星回り。
作者の自句自解には「花見から戻つてきた女が、花衣を一枚一枚はぎおとす時。腰にしめてゐる色々の紐が、ぬぐ衣にまつはりつくのを小うるさい様な、又花を見てきた甘い疲れぎみもあつて、その動作の印象」とあり、墨染の衣に対する俗人の衣を指す「花衣(はなごろも)」という言葉に、わが身の来し方を重ねているのかも知れません。
とすれば、まとわりついてくる「紐いろいろ」とは、振りほどこうとしてもそこに絡み取られてしまう女としての深い業のことなのでしょう。その意味では、いささかナルシスティックな部分を描いた句とも言えますが、けっして下品にはなっていない。
おそらくそれは、みずから裸身になってみせることで、虚勢や小手先のごまかしを捨ててしまっているからでしょう。いたずらな記号化を拒否する、ある種の不可解さや解きほぐせなさを自身で確かめている、その真摯さが理屈ではなく伝わってくるのです。
29日にふたご座から数えて「実感の奥深く」を意味する2番目のかに座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、解きほぐせない感覚にみずから踏みとどまっていくべし。
業病と言葉の冴え
前世からの報いか、来世への兆しか、いずれにせよ、なぜ抱え込んでしまったのか誰にも上手く説明できず、自分でも簡単に納得できないような厄介な事態を、仮に「業病」と呼ぶとしたら。
それは逃れようとしても逃れられないものですが、その病いはただ普通の人から平凡な幸せを奪っていくだけでなく、やはり自己表現などという因果な商売に関わっている人間の奥深さを引き出してくれるものとなっていくはず。
実際、句を詠むことは、作者にとって何よりも生きるということの中心にありました。たとえ家庭を犠牲にし、夫や子供のことを後回しにしてでも、句を詠むことを真っ先に追い求めていったし、だからこそ作者の句は深まったのです。
そう思うと、言葉はナイフのように人の心に突き刺さる凶器にもなると同時に、誰も癒せなかった傷や病を治癒する百薬の長に他ならない。今週のふたご座は、そんなことをきちんと自分の身で痛感していくことが、改めて必要なのではないでしょうか。
ふたご座の今週のキーワード
ギリギリの存在証明