ふたご座
どっちつかずのコウモリ
考えることを放棄しないために
今週のふたご座は、シンプルで分かりやすい正義感にすがらずにいること。あるいは、低くて弱くて頼りない立脚点に踏みとどまっていこうとするような星回り。
例えば、「現政権はクソだ」という考えは、「現政権を支持するような連中はクソだ」という考えに容易に陥ってしまいますが、こういう何かひとつ自分と考えが違うだけで誰かのことを全否定してしまったり、その対象を広く一般化してしまうような振る舞いが、今やSNSを中心に頻繁に見られるようになってきました。
社会学者の岸政彦は『断片的なものの社会学』のなかで、ある集団のことを一般化し、全体化するのはひとつの暴力だという。そう、自分では正義だと思っていても、受けとる相手によっては暴力となるような言説がかくも量産されているのが日本社会の現状な訳です。
岸は人には「自分の意見を表明する権利」があると同時に、「ほとんどの暴力が「善意」のもとでふるわれる」のだと述べており、それゆえに他者との壁を目の前にして、「どうすればいいのかわからない」と途方に暮れ、本書の中でも容易に結論を出すことはせず、ブレない立脚点から強者として発言する代わりに次のように述べるに留まってみせるのです。
そもそも自分自身というものが、ほんとうにくだらない、何も特別な価値などないようなものであることを、これまでの人生のなかで嫌というほど思い知っている
9月10日にふたご座から数えて「公的な立場や姿勢」を意味する10番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、複雑な世界をわかりやすくまとめたり、矛盾した考えを簡単に捨てたり、答えのない問いに焦って正解を出すことなく、いつまでも考え続けていくべし。
またひとつ正しさの強制から自由になっていくこと
中島梓の『コミュニケーション不完全症候群』(1991)では、ダイエット依存症の女の子だとか、オタクや腐女子など、日本社会に特有の少年少女における一群の現象を、現代社会へ過剰適応という観点から読み解き、若い女の子が過剰なダイエットに駆り立てられるのは、社会が求める‟いい子”像から自分が外れないためだ、と指摘してみせました。
真面目で従順だからこそ、彼女たちは社会からのメッセージ、命令に過度に忠実にしたがう。そうして自分自身を破壊しようとすることによってだけ、彼女たちは社会に無力な復讐をとげているのである。(中略)ダイエットが女性たちに約束している手形はこうである―あなたももし、この社会で「いい子」のメンバーでいたい、社会から可愛がられる優等生でいたいのならば、私のいうことをきいて、私の価値を信じる事だ。体重は軽ければ軽いほど偉いのだ。
私たちは、いつだって誰かに選ばれたいし、愛されたい。そうじゃない自分なんて、許せる訳がない。そんなふうに思うことを、いつかやめられる日が来るのでしょうか。もしかしたら、いつまで経ってもそんな日は来ないかも知れません。けれど、少なくともこの本のように、自分の病いを自覚することならできるのではないでしょうか。
今週のふたご座もまた、しばしば硬直化しがちな‟価値”が、想っていたよりずっと多様で相対的なものものであることに改めて気が付いていくことができるはずです。
ふたご座の今週のキーワード
低くて弱くて頼りない立脚点