ふたご座
頭上の夢
聖なる時間帯
今週のふたご座は、『暁やうまれて蝉のうすみどり』(篠田悌二郎)という句のごとし。あるいは、おずおずと木を登っていく蝉の幼虫のような星回り。
これは「朝」でも「夜明け」でもなく「暁(あかつき)」という、真夜中から夜明けへと転じる一瞬のひとときでなければならなかったし、やはり「羽化」などという手馴れた言い方ではなく、「うまれて」としたからこそかえって鮮やかになりえた一句。
まだ薄暗い道を林の方へ歩いていると、不意に木の幹に白くかすかに動くものを見つけ、近づいてみると、地面から這い出て羽化を始めた蝉の幼虫だった。そして、じっとその様子に見入っているうちに、気づくとずいぶん辺りが明るくなっていた。
新しい1日が始まろうとしている聖なる時間帯には、単にカレンダーが1日進んだだけではなく、世界のどこかで人知れずこうして古い生を終え、「うすみどり」の新たな生を得ている誰か何かがいるのだろう。
ただ調べてみると、じつに6割以上の蝉の幼虫は、途中で木から落ちたり天敵に襲われるなどして、羽化に失敗してしまうのだと言う。ようやく殻から外へと抜け出すことのできた蝉は、天を焦がす勢いで鳴きつづけた後、わずか1週間ほどでその短い命を全うするが、それはその誰か何かの思いが天に無事届けられたことの証しなのかも知れない。
その意味で、7月7日にふたご座から数えて「再誕」を意味する5番目の星座であるてんびん座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、途中でやめることなく新たな生を得るための試みをまっとうしていきたいところ。
ルイ・ボナパルトの場合
カール・マルクスは、1799年にナポレオン・ボナパルト(ナポレオン一世)が政府を倒した軍事クーデター「ブリュメール18日のクーデター」と、甥のルイ・ボナパルトが1851年に議会に対するクーデターを起こし、大統領権限を大幅に強化した新憲法を制定して独裁体制を樹立し、翌年には国民投票のうえで皇帝即位を宣言し「ナポレオン三世」と名乗るようになったことを対比しながら『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』を書き上げ、そこで「革命」のもつ謎について次のように説明しました。
人間は自分自身の歴史を作るが、自分が選んだ条件の下でそれを作るわけではない。彼(※ルイ・ボナパルトのこと)はそれを手近にある、所与の、過去から与えられた条件の下で作るのである。すべての死者たちの伝統は生者の頭上の悪夢のようにのしかかる。そして、ちょうど彼が自分自身と物事を改革し、それまで存在しなかったものを創造することに没頭している、まさしく革命的な危機の時代に、彼は不安げに過去の亡霊を呼び出しては、その名前や戦闘のスローガンをそこから借り受け、昔ながらの服装をまとい昔の言葉を使いながら、その新たな世界史の場面を演じているのである。
注意深く読めば、読者はここでマルクスが、伯父にならってナポレオン三世を名乗ったルイ・ボナパルトを単なるバカと冷笑的に論じている訳ではなく、ある種の愛情さえ込めて取り扱っていることに気づくのではないでしょうか。
今週のふたご座もまた、自分がいかなる創造を演じているのかということ改めて思い知っていくことになるかも知れません。
ふたご座の今週のキーワード
夢は連鎖していく