ふたご座
めぐりあう時間のそばで
いくつもの「春の闇」
今週のふたご座は、『テーブルの下椅子の下春の闇』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、ごく近くで起きているせめぎあいに気が付いていくような星回り。
作者が84歳の時の春の句で、『灯をともす指の間の春の闇』が同時作。「春の闇」という言葉の使い方から、不意にみずからの日常において死の気配を感じとっていの一句。それでもどことなくエロティックな雰囲気があるのは、近づいてくる死によって、かえってまだ生きている肉体の抵抗力が際立って映し出されているからでしょう。
「テーブルの下椅子の下」や「指の間」など、ここではいずれも普段なら気にも留めないようなかすかな暗がりにおいて、今まさに死と生がせめぎあっている様子を作者は見つめている。そうしてそれまでは抽象的で、遠いものであった死が、次第にみずからの日常に近いところで具現化しつつ、ひたひたと忍び寄ってくるのを感じている訳です。
そのとき、人間がひとり生かされているという現実が、当たり前の出来事などではなく、自然との絶えざる戦いにおいて一時的に成立している奇跡なのだということが、はじめて実感されてくるのかも知れません。
その意味で、5月1日にふたご座から数えて「喪失」を意味する12番目のおうし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、失ってからはじめてその有難みが分かるということを、一足はやく先取りしていくことになるはずです。
直線的時間と円環的時間
量子力学の世界では一部の研究者によって「私たちが現在取っている行動は、未来の私たちの意思決定によって影響を受けている」という仮説が立てられているそうですが、今週のふたご座は、ある意味でこうした仮説を逆手に取って、自分の置かれている状況や直面している問題の真実をつかみとっていけるかどうかが問われているのだとも言えます。
言うなれば、一直線に敷かれたレールの上を走るだけのトロッコのように、一方通行で流れていく有限の時間を想定していくのではなくて、未来から過去へ、過去から未来へと双方向の動きを反復していくなかで、つまり、ある種の辻褄合わせをしていくなかで、その軌跡がつながり、円環を成していくような、不思議な時間の流れへと、感覚をスッと切り替えていくのです。
むろん、そうした辻褄あわせは一瞬でできるものではありませんし、実際のところ間に合わずに死んでしまう人がほとんどなのかも知れません。しかしたとえ一時でも、そういう時間を持てたなら、少なくとも自分にとって本当に大切に感じていたものとは何だったのかという理解は深まるはず。
今週のふたご座は、そんな「未来を知ることによって過去を変えていく」試みに取り組んでみるといいでしょう。
ふたご座の今週のキーワード
『めぐりあう時間たち』