ふたご座
蝶を放つ
石庭を崩す
今週のふたご座は、『方丈の大庇より春の蝶』(高野素十)という句のごとし。あるいは、正しく、確からしい枠の外へとあえてはみ出していこうとするような星回り。
京都の龍安寺で作られた一句。長方形の敷地に白砂利を敷き詰め、そこに点在する幾つかの石を配しただけの非常にシンプルなものながら、他に類を見ない見事な石庭として知られるこの場所には、春になると枝垂桜が咲き、その明るい眺めを「方丈の大庇(おおひさし)」と縁側の暗がりが絶妙にふちどるのです。
ところが、それだけでも完璧なものに感じられる光景に、作者はあえて「春の蝶」と書き加えた。なぜか。
ひらひらと舞いおりてくる小さな蝶は、まずひっそりと静まりかえった冷たい石の庭にかすかな動きをもたらし、次にそこでちらりと見遣ったまなざしを大庇の上のうららかな春の空へと泳がしていくはず。
「大庇“より”」と言いさらに「春の」と続けることで、あえてのどかな緩急を強調したのも、目の前の歴史的遺産の社会的価値の重みから、読者を、そしてみずからを自由に解き放たんとする試みだったのかも知れません。
4月1日にふたご座から数えて「共同体のちょっと外」を意味する11番目のおひつじ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、掲句の「春の蝶」のように、予定調和の世界をみずからの手と想像力によっていかに崩していけるかが問われていくでしょう。
金継ぎの美意識
陶磁器の割れや欠け、ヒビなどの破損部分を漆によって接着し、金などの金属粉で装飾して仕上げる非常に古いルーツをもつ伝統的な修復技法のことを「金継ぎ」と言いますが、これは手つきが優しくなければ決してうまくいかない作業です。
どこから見ても完璧で、見事な調和=美しさを体現した人間などこの世にはいませんが、それでも多くの人はそうであることを価値と見なし、何らかの欠損や不格好、あるいは傷跡をできるだけ人の目から隠して、なかったことにしようとします。それが愛されるための唯一の方程式であり解であると言わんばかりに。
しかし、私たちが何か大事なことに気がつく契機や機会というのは、大抵は小さなすき間や亀裂のようにかすかなものであり、そういうフラジャイルな情報を遮断しないでいることによって、いい加減でない存在としてそれまでとは別種の美しさに気付いていく。そういう時というのは必ず、手つきもまた優しくなるのです。
今週のふたご座は、「完璧さ」や「調和」への「強化」や「拡張」という仕方とは別のスタイルで、自分自身を回復させ、再生させていく過程をたどっていくことがテーマとなっていきそうです。
ふたご座の今週のキーワード
やさしくなろうよ