ふたご座
目立ったらアカン
サバイバルの基本
今週のふたご座は、「突き放す水棹や岩のすみれ草」(高浜年尾)という句のごとし。あるいは、地味で目立たない仕方で光を放っていこうとするような星回り。
「水棹(みさお)」とは船道具のひとつで、川下りをする際に船頭さんがつかう長い棹のこと。船の行く先を変えるために、その長い棹でトーンと岩を突いた際に、その岩の陰にひっそりと控えめに咲く「すみれ草」の鮮やかなむらさきが目に入ったのでしょう。
作者本人に似て、目立たないながらも、しっかりと大地を踏んでいる重みや格調高さが感じられる句ですが、やはりなぜ目立たないのかという疑問が残ります。
一見無表情に見える詠い出しをしているから目立たない。結びに使われた季語「すみれ草」の選択や使い方が派手ではないので目立たない。器用に意外な言葉を組み合わせていないから目立たない。本歌取りをしたり、難しい漢語を使ったりなど、才人ぶっているところがないから目立たない。
目立たないのにも色々な理由がありますが、その本質は“世間にこびるところがない”という一点に収束されるのかも知れません。けれど、誰が本当に偉大であったのか、どの作品が時代を超えて光芒を放つのかは、掲句のように光陰が流れてみないと判らないものです。
17日にふたご座から数えて「サバイバル」を意味する3番目のしし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、こういうやり方もあるのかという光り方を自分に取り入れてみるといいでしょう。
不思議な逆説
地味に目立たない仕方で光を放つ存在の好例としては、生きているのか死んでいるのか分からない粘菌に注目してみるといいかも知れません。
粘菌と言えば、天才的な博物学者・民俗学者であった南方熊楠(1867~1941)が半生をかけて研究をしたことで知られる、植物にも動物にも属さない原生生物(ゾウリムシやアメーバ)に分類される生き物ですが、熊楠研究で著名な鶴見和子によれば、熊楠が粘菌を研究するようになったのは、「生命の原初形態や生き死にの本質についてのヒントが得られるかも知れない」ということが動機にあったのだそうです。
実際、粘菌が変形体としてある時、人間の目からはまるで吐き出したガムのようなつまらない半流動体のように見えますが、微生物などを捕食して成長する動物のような状態にあり、やがて栄養補充が困難になると、今度は全体が湧き上がって胞子状になります。
この時、人間の目からはキノコのように見えるため、「粘菌が生えた」ということになる訳ですが、変形体としてはこの時に死んでおり、胞子がはじけて種子のように地上に飛散し、それが時を経るとまた変形体として息を吹き返して活動を再開するのです。
つまり、人間の側からは生に見える状態は粘菌にとって死であり、人間の側から見た死が粘菌にとっては生に他ならない。そんな逆説が現に生き物として存在しているんですね。今週のふたご座もまた、そんな粘菌のごとく不思議な逆説をたどっていくことがテーマとなっていくでしょう。
ふたご座の今週のキーワード
地味に生き延びる