ふたご座
沈黙を取り入れる
こちらは9月27日週の占いです。10月4日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
微妙なところに自分を置く
今週のふたご座は、湯上り姿の女性のごとし。あるいは、開くがごとく閉ざすがごとく、そのあわいに佇んでいくような星回り。
九鬼周造は日本の伝統的な美意識について分析した『「いき」の構造』(1930)のなかで、ヨーロッパの絵画について触れて「湯に入つてゐる裸體姿は往々あるにも拘らず、湯上り姿は殆ど見出すことが出来ない」と指摘していましたが、確かに女性がすっぽんぽんになっている絵というのは西洋でたくさん見かけますが、湯上り姿のような「いき」な身ごなしを描いた絵というのはまず見かけません。
彼は足かけ8年にわたってヨーロッパに留学し、パリに滞在しているときに先の本の端緒となった論文を書いているのですが、おそらく手近にパリの女性や芸術をたくさん見て、そこでの幻滅が執筆を深く動機付けたのでしょう。
九鬼は湯上り姿の「いき」さを時間性と空間性の点から言及しています。前者は「裸體を回想として近接の過去にもち」とあるように、さっきまで裸だったんだろうなと想像を働かせるから艶めかしいし、後者はうすものを羽織っているという、相手への通路が塞がれながらも開いているという、微妙なところがいいんだと言っている訳です。
9月29日にふたご座から数えて「艶めかしい実感」を意味する2番目のかに座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、逆に実感の伴わない言動は慎むということを心がけていきたいところです。
向田邦子の「手袋をさがす」
「花を活けてみると、枝を矯(た)めることがいかにむつかしいかよく判ります。折らないように細心の注意をはらい、長い時間をかけて少しずつ枝の向きを直しても、ちょっと気をぬくと、そして時間がたつと、枝は、人間のおごりをあざ笑うように天然自然の枝ぶりにもどってしまうのです。よしんば、その枝ぶりが、あまり上等の美しい枝ぶりといえなくとも、人はその枝ぶりを活かして、それなりに生きてゆくほうが本当なのではないか、と思ったのです。」
これは彼女が何の不自由もない社長秘書としての勤めを辞めて、新聞の求人広告に応募して映画雑誌の編集記者となったきっかけについて書かれたエッセイの中に出てくる一節で、彼女は実のところ「何の不自由もない暮らし」への不満を隠していかにも楽しそうに見せかけていただけだったのだそうです。
自分本来の枝ぶりを見失っている人は多いですが、彼女のように「沈黙」を通して人生を変えることのできる人は少ないように思います。その点、今週のふたご座はそうした沈黙に入っていくための佇まいを取り戻そうとしているのだとも言えるかもしれません。
今週のキーワード
自然体のエロス