ふたご座
悲しくなろうよ
大説と小説
今週のふたご座は、「小説家」という肩書きのごとし。あるいは、声なき声を身に宿してそれをさらに深めていこうとするような星回り。
もしあなたが物語を書いて本にして出したなら、一体どんな肩書きを名乗るでしょうか。
かつてどこかで、高橋源一郎が「小説を書いて作家というのはつまらない。小説は「大説」に対する小説だから」と述べていたことがあります。
大説というのは仏教の経典であったり、大上段から天下国家を語ったりするものであって、それに対して小説というのは本当に小さなことをあえて取りあげていく。
それはつまらないものでございますという卑下であると同時に、声なき人たちの声を聞き、名もなき人たちのところに視点を置いて、人間のもっとも弱い部分、一番みじめな部分を書くことで、結果的にそこに光を見出していくのだという自負であり、それこそが物語や小説の得意としていることなのだと。
10日にふたご座から数えて「実存」を意味する2番目のかに座で新月を迎えていくあなたもまた、自己顕示ではなく、あくまで自己を深化させていく方向に力を使っていくべし。
スピノザの感情論
17世紀オランダで活躍したユダヤ人哲学者スピノザは、その思想の集大成として『エチカ』を残したことで知られていますが、その中に印象的な一節があります。いわく、
自分の憎むものが否定されるのを想像するとき、人は喜びを感じる。だが、人は、自分の憎んでいるものが破壊されたり否定されたりすることを想像するとき、心から喜ぶことはできない。われわれの憎むものが否定されたり、他のわざわいを被ったりするのを想像して生じる喜びは、必ず心の悲しみを伴っている
と。
例えば、人は時に親を憎みはすれど、否定することまではなかなかできないのではないでしょうか。なぜなら、それは自分自身の存在否定にも通じるから。そして、それゆえに、人は親に苦しめられ、また同様の理由で神に苦しんでいく。
スピノザにとって神が「信じる」対象ではなく、「理解する」ものであったように、今週のふたご座もまた、自分自身や身近な相手の“小説的な思い”としての悲しみをよくよく理解していくといいでしょう。
ふたご座の今週のキーワード
否定でもなく肯定でもなく