ふたご座
あなた従順すぎやしませんか
メタフィジカル・パーンチ!
今週のふたご座は、「メタフィジカ麦刈るひがし日を落とし」(加藤郁乎)という句のごとし。あるいは、従順な姿勢を撤回していくような星回り。
「メタフィジカ」は形而上学のこと。普通、地球上のどこにいようと太陽は東から昇り、西に沈んでいくものですが、掲句では「ひがし」に日が沈んでいくのだと言うのです。
もしかしたら、眼前の麦畑を初夏の朝焼けが照らし出し、そこにどこまでも黄金色の麦が続いていくのを見て、一瞬時間感覚が消失して、夕焼けと錯覚したのかも知れません。
もちろん、普通はそこで「錯覚か」と流してしまうところなのですが、作者はそこで世界の「普通」を疑い、もしかしたら日が沈む方角が逆転した世界というものがあるのかも知れないと、しっかりとまなざしを向け、一つの句にまで仕立て上げました。
これをただの空想遊びとして一笑に付してはなりません。この世のことわりというのは、得てして世間の「普通」や、大人たちの狭隘な「常識」をあざ笑うかのように、いつだって人間の手をするりと脱け出した先にかすかに示され得るものなのだということを、作者はよく知っているのでしょう。
5月4日にふたご座から数えて「世界観」を意味する9番目のみずがめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、いつの間にか小さくまとまっていた世界観の天井に風穴をあけていくべし。
転身の要求
ここで思い出されるのは、1900年に刊行され、当時まだ真面目な研究の対象とはされていなかった夢について、これこそ無意識の世界に至る王道なのだと論じてみせたフロイトの『夢判断』の一節です。
読者はどうぞ私の諸関心を読者自身のものとされて、私と一緒になって私の生活の細々した事の中に分け入って戴きたい。なぜなら、夢の隠れた意味を知ろうとする興味は、断乎としてそういう転身を要求するものだからである。
ここでわざわざ「転身」という言葉が使われていることに注目されたい。そう、夢というのは少なからず、夢見た者や夢を語る者の「現実」に侵食し、絡み合い、時に現実そのものをギョッとするような仕方で書き換えてしまうのです。
例えば、夢は確かにふだん目覚めている時の人生に対する一つの解釈なのだと分かってくるに従って、目覚めている時の人生もまた夢の解釈なのだと分かってくるように。
今週のふたご座もまた、そんな「転身」を少なからず遂げていくことが求められているのだと言えるかもしれません。
今週のキーワード
何かを分かったふりをするのはやめた