ふたご座
鎮魂の狼煙をあげよ
廃墟からこんにちは
今週のふたご座は、「ポスト文明」としての万葉集のごとし。あるいは、否定的な出来事までも飲み込んでいこうとするような星回り。
日本最古の歌集である『万葉集』というと、すごく素朴でひなびた世界がのびのびと書かれているんじゃないかと、そんな風に思われがちですが、実際はそうではない。
例えば、天皇中心の中央集権国家を建設すべく大化の改新を起こした中大兄皇子(天智天皇)が遷都した大津宮も、壮絶な内乱であった壬申の乱(672)のため、たった5年しか使われませんでした。作っては棄て、作っては棄てで、残された都には敗者の怨念が残った訳です。
そこに登場してきたのが柿本人麻呂(645頃~710頃)で、彼はそうした怨念を慰め、鎮魂するための「文学」として、和歌の形式を確立していったんです。
したがって、人麻呂の根底にあるのは、かつてあった都市文明が壊れてしまったという喪失の感覚であり、日本の文学の源流というのは野生や野蛮からではなくこうした首都の崩壊から始まっているんですね。
8日にふたご座から数えて「心理的基盤」を意味する4番目のおとめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、単に無批判に「〇〇ってこんなにすごいんですよ」という快楽的な物語を提示するのではなく、ネガティブな物語も飲み込んだ上で、自身の物語を紡ぎだしていくことが求められつつあるのだと言えるでしょう。
精神の死としてのイベント文化
20世紀前半、ソ連からロシア共和国への急激な変化の中でロシアは政治・経済的には混乱の極みにありましたが、その底流にはつねにかの国の芸術や文化の根っこを形づくっていたロシア正教の影響やある種の霊的感受性と言うべきものの影響が存在していました。
例えば、同時代に西欧で活躍したロシアの思想家ベルジャーエフは著書の中で「文化はひとつの妥協にすぎない。精神が客体化されて、この地上の世界と妥協するのである」(『孤独と愛と社会』)と述べています。これは一見奇異に聞こえる考えではありますが、そこには過度に西欧化された教会や、文化全体に対する強い批判が込められており、こうした彼の批判は現代を生きる日本人の文化観にも鋭く突き刺さり、ひいては今のあなたが抱えている問題意識にも繋がってくるのではないでしょうか。
確かにハロウィンにしろクリスマスにしろ、いや恋愛や結婚でさえ、海外から輸入された「文化」に価値が与えられ、イベント文化を自明のものとしている今の日本社会では、文化は単に形骸化された妥協に過ぎないという彼の主張にも同意せざるを得ないはず。
「(制度化された)大学、研究所など、精神の死以外のなにものでもない」といった主張となるとさすがに付いていけない人も少なくないかも知れませんが、自分の中の固定観念に改めて風穴をあけようとしている今週のあなたにとっては、ベルジャーエフの真摯な過激さに触れていくくらいがちょうどいいように思います。
今週のキーワード
「精神とは何か。火である。精神の行う創造は芯の芯まで灼熱している」(ベルジャーエフ)