ふたご座
ジュネ的逸脱
自己救済のための手品
今週のふたご座は、ジャン・ジュネの『泥棒日記』のごとし。あるいは、権威であるとか価値とか知性だとかに絡めとられるのをどこまでも避けようとしていくような星回り。
20世紀のはじめに娼婦の私生児としてパリに生まれ、乞食や泥棒、男娼をしながらヨーロッパ各地を放浪した作者が、泥棒をする日記ではなく「泥棒として」自らの半生を語り、その執筆中に十回目の有罪判決で終身禁固になるところを、サルトルやコクトーといった著名な文学者の嘆願で特赦されることになったのが本書。
一般的には聖性を反転させた悪徳の美学なんて評価をされていますが、実際に書かれているのは、ボーイズラブのアバンチュールであり、またその裏切りの歓びであったりします。
具体的には、ご主人様のような彼氏に尽くす<わたし>を演じる自分と、そこからすっと醒める話であったり、友達にお金を送る約束をしたかと思うと、その札束を捨てるつもりでびりびりに破いてしまい、それなのに直後にそれらを糊でつなぎ合わせるといった、どこか歪んだ、痛々しい話。
また彼は次のような、浮ついた浅はかなインテリを打ちのめすような言葉も書いています。「わたしはさらに、わたしの罪によって知への権利を獲得したのだ。わたしはよく思った、思惟する権利を持たずに思惟する人があまりに多い、と。彼らはこの権利を、思惟することが自己の救済のために不可欠である、という底(てい)の事業によってあがなったのではないのである」と。
12日にふたご座から数えて「疎外と逃走」を意味する11番目のおひつじ座で、火星に月が重なっていく今週のあなたもまた、自分自身を救済するために、くもりなき冷徹な眼差しで自分や周囲の罪穢れを見つめ、それらに化粧を施していくことが、テーマになっていくでしょう。
断片的なものの力
例えば、「猫のしっぽ」のような存在の切れっぱし。あるいは、錆びた看板、使いかけのノート、壊れた機械の部品、音が一部飛んでるオルゴール、割れた食器、百科事典の切れはし、レンズのない天体望遠鏡、舞い上がるビニール袋、きちんとした文章になっていないけれどどこか引っかかる単語など。
それ自体では中途半端な、不完全で、些細な、不具の断片。けれど、どこかそこから物語が始まっていきそうな、全体性を欠いた部分。いや、完成された全体性よりもずっとキラキラしている魅力的な神話のかけら。
「そんなもの、いつまで持ってるの、捨てなさい」
「嫌だ!」
予定調和的に完成してしまうことを断固拒否するような、強い意志を体現した部分や断片には、こちらの論理を逸脱させるバイブレーションがあります。その振動の鋭さになにか本質的なものを感じ取るとき、それはジュネのくもりなき眼差しとも必ずや重なっていくはず。
今週のキーワード
猫のしっぽ