ふたご座
蒙を啓く
揺れる蚊帳
今週のふたご座は、「小夜ふけて窃に蚊帳にさす月をねむれる人は皆知らざらむ」(長塚節)という歌のごとし。あるいは、どこか無意識のうちに耽っていた行動を、別の仕方へすっかり転換させていくような星回り。
9日(月)に金星がふたご座へと入り、10日(火)に上弦の月を迎えていく今週はどこかで擦り切れ気味になっていた感受性が、潤いを取り戻さんと静かに、しかしあり得ないくらいの深度で勢いづいていきそうです。
さながら皆が寝静まった夜中にただ独り目ざめ、「窃(ひそか)に」夜の散歩へ出かけていく人のように。
ただ、金星というのは、ふたご座の守護星である水星とは違ってストレートな主張や分かりやすい説明をしない代わりに、モノや情景に思いや情緒を託していこうとします。
例えばこの歌であれば、かすかに風に揺れつつ、月の光の差しこみを間接的なものにしている「蚊帳」がそれ。
占星術では、月は「記憶」や「思い出」や「無意識の反応パターン」を意味しますが、まさに今週はそれ自体ではどこかはかなげで、危うい月的なものを、いかに心地よいと感じられる、懐かしいものにしていけるかが試されていくことになるでしょう。
異界を作りだす
最近はあらゆることがマーケティング的に語られ、売るためのわかりやすさやお役立ちが求められ、誰も彼もがポジション・トークに徹しているようなディストピアへ、社会全体が一丸となって突き進んでいるように感じられます。
そういう流れに反するための表現や歌や教育であるとして、もしそこで魂ということを前提に置くのなら、まず第一に「ここではない異界」を作りだすことを考えなければいけないだろうと、そんな風に思います。
例えば、夜中に不意で出くわすノラ猫は、それは見事に異界を作りだします。社会の大人達からすれば、何でもないような意味の空白地帯である公園の一角に、猫がたたずむ。
すると、風はもう静まって、猫は柔らかい機械の振動へと変わり、いよいよ空気を震わせて、一瞬の内に月光を冴え冴えとしたブルーに様変わりさせてしまう。
そうした光景を垣間見たときの、「とんでもないものを見てしまった」という驚きこそが、魂をことほぐ最高の贈り物であり、そのための余地や余白を作りだしていくことこそが、魂に対する敬意の払い方なのではないでしょうか。
まずは今あなたの中に、月の光がそっと差し込んでくるだけの余地や余白が十分にあるかどうかから、確認していくといいでしょう。
今週のキーワード
柔らかい機械の振動