ふたご座
目をやしなう
夢と現実のあいだに立つ
今週のふたご座は、「夢に舞う能美しや冬籠」(松本たかし)という句のごとし。あるいは、夢から醒めた後の現実を、それでも生きていくような星回り。
作者は能役者の家系に生まれ、8歳で初舞台を踏んだものの、その後病弱のために能を断念し、代わりに俳句に打ち込む人生を選んだ人。
夢の中で「能」を舞う、そんな自分の姿に「美しや」と詠嘆するのは、幽玄でありながら、やはりなんとも言えない物寂しさを感じます。
そして、そうした夢から現実に引き戻すのが季語の「冬籠(ふゆごもり)」で、ここで冬の寒さとやはり病弱さのため、外に出ずに部屋に閉じこもっている作者の暮らしが否が応でも差し込んできます。
きっと作者は舞台への憧れと未練とが複雑に入り混じった気持ちをいまだ強く抱えているのでしょう。夢破れた人だからこそ、夢の美しさが痛いほどに分かる。
今週のあなたもまた、夢と現実の対比を改めて痛感させられていくことがあるかもしれないですね。
しかし、作者がこうして人の心に強く訴える言葉を紡ぎだしていることもまた紛れもない現実であるということを、忘れずにいたいものです。
何かが起こりそうな気配を捉える
現代社会に暮らす私たちは、同じような日常の連続をごくごく平凡なことだとか、代わり映えしない退屈なことと思いすぎる傾向があります。
そこで、何か劇的な変化を求めてついつい変わったことをして有名になろうとしたり、海外旅行へ行ったり、出会いを求めたり、家を変えたり、酔っ払らおうとしたりする。
けれど、何かが起こりそうな気配の発生してくる震源地というのは、非日常ではなく、むしろ日常の中に埋没して在るものなのです。一見何も起こらない‟閑静な”シーンにこそ、目を向けるべき対象は潜んでいる。例えば、
「あの三流の付き人を演じているのは、一流の役者かも知れない」
といった、「ひょっとしたら」の感覚。それが幾度か重なり「まさか」の渦となって高揚し始めてきたとき、現実はあっけなくひっくり返り、かすかな消息を残してどこかへ消えてしまったりする。
でも、結局のところ眼というのはそうやって養われ、潤いを取り戻していくんですよね。
今週のキーワード
青山二郎『眼の引越』