やぎ座
変容と条件
はっとする1歩
今週のやぎ座は、「夏山や一足づゝに海見ゆる」(小林一茶)という句のごとし。あるいは、前進していくなかで急に視界が広がって、無意識が開示されてくるような星回り。
一茶は晩年に故郷に身を落ち着けるようになるまで、頻繁に諸国を歩きまわっており、壮健で旅慣れた人でした。「一足づゝに」というのは、まさにそんな熟練の旅人の感覚そのものでしょう。
そして「千里の道も一歩から」という言葉はやぎ座の本質そのものとも言えますが、苦しい山道を歩いていって、不意に視界が開けて海が見えてくる時のような、思わずはっとするような一歩を経験していくことができそうです。
それでもあなたは、そこで歩みを止めることなく、これまでと同じように前へ前へと歩み続けなければならない。
一見するとそれは単調な歩みのようでもありますが、あなたの心の中では目が覚めるような鮮やかな気分が広がっていくでしょう。それは新たな幕開けの到来のしるし。クリアになった視界に映る景色を全身で吸収していってください。
賢治の意識変容スイッチ
宮沢賢治にとって、ちょうどそれに近い体験について書いたであろうもののひとつに、「東岩手火山」というとても長い詩があります。
この詩は「月は水銀 後夜の喪主(ごやのもしゅ)」という謎めいた呪文のような言葉の繰り返しから始まるのですが、これは賢治が生涯その眺めのもとで暮らした岩手山へと、月を仰ぎながら眺めながら登っていく際の、意識変容そのものをうたったものと考えられます。
ドアをくぐる決定的な瞬間は、一定の高さ(標高)と、そこで聞こえてくる鳥の声の2つの条件がそろった時に訪れる。その部分を抜き出してみましょう。
「鳥の声!
鳥の声!
海抜六千八百尺の
月明をかける鳥の声、
鳥はいよいよしつかりとなき
私はゆつくりと踏み
月はいま二つに見える」
「海抜六千八百尺」とはおおよそ標高2000メートルのことで、岩手山の標高が2038メートルなので、頂上付近に差し掛かったことを表しています。高みに登れば登るほど、意識はよろめき、異次元を生み出す回路が開かれていく。
山の懐深くで賢治が「2 つの月」を幻視したように、今週はあなたがこれから迎えていくことになるであろう新しいリアリティーを幻視するためのスイッチを押していくためのタイミングとなっていくでしょう。
今週のキーワード
風景の幻視