
やぎ座
密かに気付いたことを、こっそり伝える

波のまにまに
今週のやぎ座は、「初夏の透けてかがよふ波の裏」(ながさく清江)という句のごとし。あるいは、みずからが浸ってきた「おはなし」に、別の誰かを引き込んでいこうとするような星回り。
特有の透明感や爽やかさ、開放感が感じられる「初夏(はつなつ)の」から始まる掲句は、中層の「透けてかがよふ」という現象描写、そして下層の「波の裏」という語の三層のなかでゆるやかに沈降していくような構成になっており、初夏のまぶしい光から波間のきわめき、そしてその裏側の奥行きへとなめらかに移行する映像美を読者の内面に巧みに浮かび上がらせています。
特に、「波の裏」という語は見ることができそうで見えない、ただの物理的な裏面を示すだけでなく、この世の儚さやうつろう現象(波)の背後にある浄性(清らかな真理)でもあるはず。
掲句ではそうした本来見えるはずのない何かを垣間「見る」だけでなく、「聞こえ」「感じる」ことができるよう緻密に設計することで、波の奥にある時間や存在の深層へのアクセスを可能にしているのです。
ただし、波は形を持ちませんから、ひとたび「裏」を見聞きしたと思っても、それは次の瞬間には「表」になり、消えてしまいます。すなわち、「裏」とは永続的かつ固定的にどこかに存在しているのではなく、一瞬の感応を通してしか捉えられないものなのでしょう。だからこそ、作者はそれを句にして誰かに伝えたかったのかも知れません。
5月4日にやぎ座から数えて「人と人との間で共有されるもの」を意味する8番目のしし座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、心から誰かと共有したいものが果たして自分にはあるのかということが、おのずと問われていくでしょう。
交わりの作法
多くの伝統社会において「狩猟」は神聖かつ危険な営みで、もし動物を仕留めたとしても、いきなり解体したり、勝手に運搬することは厳禁であって、大抵は決められた作法に従い、きわめて儀礼的な身振りで、注意深く行われたものでした。
例えば、北アメリカ大陸の北西海岸内陸部の高原地帯に住み、山羊や熊を狩り、ベリー類を採集して暮らすトンプソン・インディアンと呼ばれる人々は、狩人が守るべき作法を(山羊の立場からの語りにおいて)次のように定めています。
人間たちは山羊の解体をはじめる前に、顔を黒く塗るようにしなさい。舌と肺と心臓の上には聖別した羽毛をかけなさい。そして残りの体は、家の火の上にかけて、乾かしなさい。それが私たち山羊にはよく療法となります。骨と臓物は注意深く集めて、水に沈めなさい……山羊の頭を調理するときには、顔の部分を赤く塗り、羽毛をかけて、鼻を火のほうに向けて置きなさい……頭の部分を焼いているときには、人間は完全な沈黙を守らなければなりません。(クロード・レヴィ=ストロース、『大山猫の物語』)
一見突飛な内容に思えますが、こうした深層での約束事というのは、現代の都市生活でも脈々と受け継がれていたり、新たに生成されつつあったりするのではないでしょうか。
同様に、今週のやぎ座もまた、最大級の敬意と誠実さをもって誰かと秘密や知識を分かち合っていくことがテーマとなっていくでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
なるべく日常の惰性から離れた「美しい行動」をとること





