
やぎ座
そこはかとない抵抗

なにか不確定なことが起こるとき
今週のやぎ座は、『初恋のあとの永生き春満月』(池田澄子)という句のごとし。あるいは、エネルギー保存の法則を破って振れやブレをつくり出していこうとするような星回り。
「初恋」はかなわないものと相場は決まっていますが、どうしてそれでもみんな恋をするのか。逆説的な話ではありますが、それは私たちが振動したいからでしょう。
つまり、「あの人は思っていてくれるかな、ダメなのかな、どうなのかな」という両方を考えざるをえないような確率振れ幅の世界であり、それは「私なんてなんとも思われてないに決まっている」とか「あなたが私を好きなのは当り前だし、そうであるならばこれくらいのことをしてくれて当然でしょう」といった冷え固まった世界とは一線を画している。
ところが掲句のように永く生きていれば、どうしても後者のような世界線が当り前になっていってしまう。作者は、春のうるんだ満月を眺めているうちに、失わうことへの怖れで震えていた「初恋」の頃をふと思い出し、その後の紆余曲折を思い返していたのでしょう。
初恋に破れた人は、自分のことを世界一不幸な人間であるとか、もう死んでしまいたいと真剣に考えるはずですが、その一方で、皆たくましくもその後の生き方を見つけ、また新たな恋をしてきたはず。作者はきっとそんな自身のこれまでに半ば満足しつつも、どこかでもう一度世界に振れやブレの余地はないものかとうっすら考えていたのかも知れません。
3月14日にやぎ座から数えて「予定調和の破れ」を意味する9番目のおとめ座で月食満月(大放出)を迎えていく今週のあなたもまた、当惑したり、ためらったり、困っているときに伝わるコミュニケーションにおのれを目一杯かたむけていきたいところです。
動的平衡のほうへ
この宇宙は大原則として、あらゆるものがエントロピーが増大する方向にしか動きません。つまり、秩序あるものは混乱し、集まったエネルギーは分散していく定めにあるのです。
ただ、そうしたエントロピー増大の法則に対して、絶え間ない“抵抗”を行っているのが人間の身体であり、そのひとつひとつの細胞なのだそう。
つまり、先の法則にしたがって作られた細胞はやがて壊れていきますが、自然に壊れるのに先回りして自分を壊し、その不安定さを利用して新しい細胞を作り出す活動をしているのです。おそらく振れやブレを作るというのも、こういうことでもあるのでしょう。
生物学者の福岡伸一さんは、こうした絶え間なくすべての細胞を入れ替え続けることで「生きて」いることを可能にしている細胞レベルの抵抗を、生命の「動的平衡」と呼んでいますが、今週のやぎ座もまた、このまま小さくまとまっていくよりも、そうした「動的平衡」にみずからを投げ込んでいくつもりで過ごしてみるといいでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
トワイライト





