やぎ座
雪と音と存在と
そっと後押ししてくれる感じ
今週のやぎ座は、「思ひ出すやうに降る雪手紙書く」(名取里美)という句のごとし。あるいは、「存在」の定義をもっと身近に感じられるものへ書き換えていこうとするような星回り。
今にも雪が降りそうな重い曇天が広がっていたのでしょう。そんな空の力みがふっと抜けたような瞬間に雪が降ってきた。そのなんとも言葉にしようがない“感じ”を「思い出すやうに」と形容しているところに、思わず深く納得させられてしまう一句。
色彩はもちろんのこと、時間からも感情からも見捨てられたような気持ちになる雪国の冬では、冷たく重苦しい鉛のような時間を長い間耐え忍ぶことになりますが、それでも掲句に詠まれたような雪の降る日は、早春を告げるこぶしの花の咲き始めとはまた異なる感慨を人びとにもたらしていくのではないでしょうか。
それはひらひらと舞い散る桜の花びらを見たときのごとく、もっとも個別的でありながら、多様で、強度に満ちた、「存在が花する」ような体験であり、だからこそ、伝えたいことを思い出しながら書く手紙の描写ともシームレスに繋がって、作者を後押ししているように感じられるのかも知れません。
ここで「存在」という言葉を使いましたが、普通それはもっとも自明で、一般的で、したがって凡庸で空虚なものとして整理されることが多いですが、こういう句を鑑賞していると、本当は人間が考えうる最上級に柔らかく、どこか温かいような感じを抱かせてくれるものではないか、という風に思えてくるから不思議です。
1月7日にやぎ座から数えて「基盤」を意味する4番目のおひつじ座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、生きようと思える気持ちをそっと下支えしてくれるようなものにこそ、そっと手をのばしていきたいところです。
西洋音楽に対するインド音楽
西洋音楽の基礎を築いたバッハやグレゴリア聖歌のように、西洋の芸術というのはひとつひとつの音や意味を片っ端から組織して秩序化してしまおうとするところがありますが、その点、インドのラーガ音楽は異なった音を同時に重ね合わせるハーモニー(和音)という考え方がなく、何もない「無」からほわーんと音が浮かんできて、まるで多島海のように一個一個が独立してそこに置かれていく印象を受けます。
そうして音がどこかからか浮かびあがってきては、また沈み込むように消えていくのですが、一方でわたしたちは、常日頃からいったん獲得した意味や文脈を失うまいと、残らず橋をかけては陸につなげ、そうすることでますます欲望は増し執着も深まっていきます。
その点、今のあなたはラーガ音楽のような在り方に自分を重ねていくことで、それとは逆のベクトルへと自らを促していこうとしているはず。つまり、自分の個性だったり、キャリアや実績といったものを「存在」のなかに投げ込んでいくことで、これまで獲得したものを惜しげもなくデリートしては、足元にぽっかりと空いた「存在」への通路を開いていくのです。
今週のやぎ座は、目に見えるモノや分かりやすいこの世の関わりのもっと根元にあるものへとすっかりおのれを溶かし込んでいくイメージを大切にしてみるといいでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
「存在が花する」