やぎ座
いくつかのリズム
生きた小さな星として
今週のやぎ座は、生命リズムと宇宙リズムとのハーモニーとしての「宇宙交響」のごとし。あるいは、自分がそこに浸っているリズムにいつも以上に敏感になっていくような星回り。
AIや遺伝子操作の技術的発展によって、現代はいのちあるもの“生命らしさ”とは何かということが個人レベルでも社会全体でもよく分からなくなっている時代とも言えますが、解剖学者の三木成夫は『胎児の世界―人類の生命記憶―』において、そうした生命の本質を、およそ30億年前の海水にうまれた地球上で最初の生命物質に立ち返ることで鮮やかに描き出しています。
地球という特殊な「水惑星」において初めて現われたそれは運命的な出来事と思われる。この原始の生命球は、したがって「母なる地球」から、あたかも餅がちぎれるようにして生まれた、いわば「地球の子ども」ということができる。この極微の「生きた惑星」は、だから引力だけで繋がる天体の惑星とはおのずから異なる。それは、「界面」という名の胎盤をとおして母胎すなわち原始の海と生命的に繋がる、まさに「星の胎児」と呼ばれるにふさわしいものとなるであろう。
さらに三木は、生命らしさを特徴づけるたえざる自己更新を、生命リズムを代表する食と性、吸収と排泄という対をなす波が、太陽系のもろもろの波に乗って無理なく流れ、一つの大きなハーモニーを醸し出すところまで、ヴィジョンを展開していくのです。
この生きた小さな星たちは、こうして「母なる地球」と手を携えて太陽系の軌道に組み入まれ、「兄弟の月」そして「叔父・叔母の惑星たち」と厳密な周期の下に交流をおこなう一方、「祖母の太陽」を介して、さらに広大な銀河系の一員として、そこに交錯する幾重もの螺旋軌道に乗っかることとなる。そしてこの銀河系もまた、もうひとつ大きな星雲の渦にとり込まれる……。こうして際限なくひろがっていく。その星雲の果てに、無辺の虚空のなかを宇宙球の最後の渦がゆるやかにまわりつづけるのだという。
5月15日にやぎ座から数えて「深い交わり」を意味する8番目のしし座で上弦の月を迎える今週のあなたもまた、ふだん自分が乗っている生の波が、宇宙リズムのどれかしらとどれだけきちんと交流できているか、今一度確認してみるといいでしょう。
高良留美子の「海鳴り」
例えば女性の生理現象にしても、うんざりする仕方で語ろうとすればどこまでもそうできてしまう一方で、どこまでも涼しく高い次元で語ろうとすれば、こうなるのかと思わせてくれるのがこの「海鳴り」という詩です。
ふたつの乳房に/静かに漲ってくるものがあるとき/わたしは遠くに/かすかな海鳴りの音を聴く。
月の力に引き寄せられて/地球の裏側から満ちてくる海/その繰り返す波に/わたしの砂地は洗われつづける。
そうやって いつまでも/わたしは待つ/夫や子どもたちが駈けてきて/世界の夢の渚で遊ぶのを。(詩集『見えない地面の上で』)
男性よりも、より自然に近い女性のからだのリズムは、小さな子宮をこえて、茫漠とした広がりを持っている。女性にとって複雑な思いを抱いてしまう月の満ち欠けにしても、作者のように深い体験を加えていくこともできるのだと知れば、感じ方もまた変貌してくるはず。
その意味で今週のやぎ座もまた、この詩を書いた高良のように、生活の一コマ一コマをまるで新品のように洗い出し、輝かせていくことができるかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
食と性、吸収と排泄という対をなす波