やぎ座
午睡よりも深い倦怠
動物の放心
今週のやぎ座は、「brachliegen」というドイツ語の動詞のよう。あるいは、社会をよくしよう、正しくあろうとする動きをいったん停止・保留させていこうとするような星回り。
哲学者のジョルジョ・アガンベンは、科学や政治もまた人間が作り出すものである以上「閉じられた世界」であり、例えば動物などは決してそれらを知り得ないにも関わらず、人間以上にいきいきと豊かに生をまっとうしているように見えることについて、「動物の放心」という言葉で表しました。
さらに興味深いことに、アガンベンはそうした動物たちの「真理については何ひとつ知らないし、何ひとつ予期してもいない」状態について、人間の「深い倦怠」と似ているという指摘もしています。
アガンベンはこの特殊な状態について、「不活性のまま滞留する」「休暇中である」などと訳される「brachliegen」というドイツ語の動詞にも置き換えており、これは翌年に種を撒くことができるように耕作しないままにしておく農地を意味するBrache(休耕地)という言葉に由来し、活動しないまま、あらゆる判断を宙づりにしたままに保持されてあるということであるのだとも説明しています。
同様に、11月5日にやぎ座から数えて「死と変容」を意味する8番目のしし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな風に具体的な可能性を活性化しないようにすることによってはじめて、いきいきと豊かに生をまっとうしていくきっかけを見出していくことがテーマとなっていきそうです。
例えば、波乱に満ちた人間世界とは異なる次元にいる鳥たちが、そのさえずりの中で突き抜けた歓喜とともにあるように。
アイルランド語の「ラ―ス」
先の「Brache(休耕地)」と似た言葉に、「ラース」という言葉があります。これは、その地下には妖精たちの棲家があると伝えられてきた、こんもりと盛り上がったり逆にへこんでいたりする地面の特別な場所を指すアイルランド語で、その上に人間が家など建てるなど言語道断とされたのだそうです。
そこは自然の不可侵の領域であり、地下と地上、すなわち、此岸と彼岸とをつなぐ特別な出入り口と考えられていたんですね。ニュアンスとしては日本の神社の鎮守の森などで神域とされる場所にも近いですが、そうした人間には計り知れない領域が日常世界と地続きに存在しているという感覚は、現代社会では既に喪われつつあるのではないでしょうか。
少なくとも古代ケルト人たちは、そうした場所を人工につくられたものではなく、妖精たちの仕業であると考えていたか、あえて世界にそういう余地を残しておいた訳です。
今週のやぎ座もまた、ある意味で現代人として死に、古代人としてよみがえるような、そんなきっかけを得ていくことができるかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
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