やぎ座
コの字型カウンターの魅力
「楽しく呑む」時間と空間
今週のやぎ座は、大衆酒場の果たしてきた役割のごとし。あるいは、息苦しい文脈から自由で居られるよう、世間とのかかわりを調整し直していくような星回り。
社会全体で効率化や合理化が進み、人間の価値が生産性によって判断される度合いが高まると、自然と余暇は消費へと歪曲され、ひとりひとり異なる背景をもっているはずの個人も単なる顧客としか扱われなくなる―。
そうした流れはなにも昨今に限った話ではなく、第二次大戦後のアメリカ社会などでも問題視されましたが、そこで注目されたのは人との緩やかな繋がりを感じられる、家庭でも職場でもない「第三の場」、すなわち居心地のよい大人の交流場でした。
アメリカ出身の日本文化研究者であるマイク・モラスキーの『呑めば、都―居酒屋の東京―』では、赤羽や西荻窪などでの自身の呑み歩き体験をもとに、都会生活における居酒屋の日本独特の役割について言及されており、特に「居酒屋は、味より人」であり、「ひとりで立ち寄っても、誰かと共にいる感じがして、楽しく呑めるのがよい店だ」という主張が何度も繰り返し登場してきます。
酒とつまみだけなら通販や自炊でいくらでも代用可能ですが、強制された訳でもなく自然と集まった常連たちが、互いにノリや発言を読みあうことで醸成されるその店独自の<空気>は、居酒屋でしか経験できないものでしょう。
特に、本書に紹介されているような小さな店では「皆で飲む」という意識が共有されやすく、そうした場はいつしか自らのアイデンティティとも固く結びついていくものです。
15日にやぎ座から数えて「共同体づくり」を意味する10番目のてんびん座の新月から始まる今週のあなたもまた、みずからが気持ちよく透明になれる場や時間について問い直していくことがテーマとなっていきそうです。
酒場ではみなボケている
とはいえ、一口に大衆酒場(居酒屋)と言っても、さまざまな形や規模のカウンターが見られます。最もありふれている形は一本のまっすぐなカウンターでしょうし、ほかに「L字型」のもあれば、四角系や長方形のものもありますが、モラスキーによれば「『コの字』という形は比率では一番多くなくとも、最も客同士の共同体意識を生み出す形ではある」のだそうです。
まっすぐなカウンターの場合、両隣以外の客くらいしか意識することはなく、顔も見えにくく、すぐ近くに座っていてもしばらく飲んでいれば、次第に自分ひとりの空間に没入していくような感じさえ覚える。対して、「コの字」だと、誰もがほかの客の顔を見ることができますし、また常に見られてもいるから、カウンターは自然と「みんなの場」になっていきやすいのだと。
もちろん、牛丼のチェーン店のように「コの字」型でも客同士の関係が「薄い」場合もありますが、タイミングを見計らって気配りさえすれば、他人の会話に入っていくことが最も自然に許されるのが「コの字」型カウンターの最大の特徴であり、要するに、寛容な雰囲気の中で、ほどよい秩序が自然に保たれるのがその魅力という訳です。
今週のやぎ座もまた、おのずと自分がほどよい繋がりを感じるような距離感を取り戻していこうとするはずです。
やぎ座の今週のキーワード
醒めたり惚けたり