やぎ座
解決できない問題への固執
一茶の問いかけ
今週のやぎ座は、『夕立や樹下石上の小役人』(小林一茶)という句のごとし。あるいは、現実に対する違和感や主義主張を大胆にも表明していこうとするような星回り。
「樹下石上(じゅかせきじょう)」とは、雨露がしのげる樹の下や石の上などで野宿することの喩えで、転じて、出家行脚の境涯を喩えたりもする訳です。
実際、作者の故郷では夕立をさけて樹下に立っている旅のお坊さんや役人(武士)などの光景がしばしば見られたのかも知れません。とはいえ、見た景色をそのまま描いたのだとしたら、「石上」という言葉は不要だったはず。
そしてそれは、わざわざ「小役人」と「小」を付けている点にも共通することです。つまり、掲句は事実ありのままを描いたものではなく、「石上」と対応させて「小役人」を諷刺した、というよりからかってみせた一句なのでしょう。
ただ、単に暴政に加担して民を苦しめる役人を手きびしく批判するだけでなく、そうした役人でさえも「夕立」のような自然の前ではどうすることもできず、普段は見向きもしないはずの「樹」や「石」に逆に助けられるような、ちっぽけな存在に過ぎないのではないか、と。そうして掲句は「小役人」のもの哀しさをも醸し出しているように感じます。
おそらく、こうした世俗的な現実への皮肉と、もの悲しさの実感とを両立させていくことこそが作者なりの思想信条だったのではないでしょうか。
5月28日にやぎ座から数えて「思想信条」を意味する9番目の星座であるおとめ座で上弦の月を迎えるべく光が戻っていく今週のあなたもまた、改めて自分が大事にしている哲学や問いを再確認していくことがテーマとなっていきそうです。
途方に暮れる天使
いまからおよそ500年前に制作されたデューラーの版画『メランコリアⅠ』には、海のそばの建築中の空間に腰をかけた有翼の天使的な女性が描かれており、その顔は濃い陰影で覆われ、衣服にはしわが寄り、お世辞にもオシャレとも優雅ともとても言えない雰囲気が醸し出されています。
さらに、彼女の傍らにはやせ細った犬が1匹、石板に何かを刻んでいる子どもがひとり、そしてこの三者の周りには挽き臼、はしご、天秤、砂時計、かんな、球体、魔法陣などが雑然と散らばっており、美術史家のパノフスキーはイコノロジーの見地から、人間の知恵とテクノロジーの象徴と深く関わると見なし、有翼の天使的な女性はそれらが陥っている深いメランコリーの象徴的存在なのだと考えました。
そしてこれはおそらく、21世紀の人類が高度な知の道具を用いていくら認識を深めても、この地球がその把握を超えた「解決できない問題」をつぎつぎと差し出してくるという状況を描いた一種のカリカチュアとも解釈できるのではないでしょうか。
同様に、今週のやぎ座もまた、日々の仕事や人間関係に追われる人間的憂鬱というより、できうる限り冷静に知性を働かせることでかえって途方に暮れてしまうような、天使的憂鬱に駆られていきやすい時期なのだと言えます。
やぎ座の今週のキーワード
ドスのきいた「やれやれ」