やぎ座
全身全霊へ
まず熟睡
今週のやぎ座は、重い心身症を克服した白隠禅師のごとし。あるいは、自己の根本としての「丹田」の充実に立ち返っていこうとするような星回り。
近世における禅の復興者であった白隠(はくいん)は、中世に中国から入ってきた公案(古人の言動を問題として与え、それを体得することで同じ悟りに達する)を中心とする禅を体系づけ、道筋を明確化するとともに、禅の世界を分かりやすい言葉で表し、身近なものにした人物として知られていますが、その著作の中でも最も多くの人々に読み継がれてきたのは何と言っても『夜船閑話(やせんかんわ)』でしょう。
そして、この書物で説かれていたのが、白隠が若いころに座禅に行き詰まり、心身に決定的な変調をきたした際に、それを治癒・克服する術として京都白川の洞窟に住む白幽という仙人から教わった内観法についてなのですが、それは道教と仏教を織り交ぜた養生法であり健康術でした。
もしこの秘要を修行しようというのであれば、しばらく参禅をやめ公案から離れ、まず熟睡して目覚めなさい。まだ眠りに入らず、瞼を合わせない前に、長く両脚を伸ばし、強く踏みそろえ、体中の気をへそ下の下腹部、腰・足、土踏まずに集め、その時に応じて、この丹田こそが自己の根本であると心を集中しなさい。
20日にやぎ座から数えて「基盤」を意味する4番目のおひつじ座で新月(日蝕)を迎えていく今週のあなたもまた、改めて高い目標の達成や大それた自己実現などよりも、改めて心身の健全化に取り組んでいくべし。
諦めと治癒
今はもう使われていない表現ですが『分裂病者と生きる』(1993年)という本があって、その中で編者のひとりである加藤清がまだ若い精神科医だった頃のエピソードとして次のような話が語られています。
いわく、壁面に頭を打ちつけて自傷行為をやめない患者を前にして、誰も何もなす術がなくなり、無力感にかられてみな呆然として立ち尽くしていたと。そのとき、加藤は突然、病室の隅にあったゴミ箱の中に入って土下座した。すると、それまで誰が何を言おうとしようと自傷行為をやめなかった患者が動きを止めて、加藤に注意を向けた。そして、その瞬間から治療行為が進み始めていったというのです。
加藤はなぜ、わざわざゴミ箱に入って土下座したのか。あえて言いきるならば、ここにはあらゆるレベルの治療や治癒という現象の秘密が現れているように思いますし、それは今のやぎ座にとっても重要な指針になってくるでしょう。
加藤のしたことは、患者や同僚に対するある種の「超越」行為と言えますが、同時にそこには「自分ではどうにもならない」「救えない」といった患者の苦悩に対する諦めの深さと祈りの切実さがあるという点で、権力構造を伴なう操作や圧倒、マウンティングなどとは決定的に異なる、一生命体としての全身全霊の行為であったように思います。
その意味で、今週のやぎ座もまた、ほかならぬ自分自身に対して、そうした<諦め>ということをどれだけ抱いていけるかということが問われていくのではないでしょうか。
やぎ座の今週のキーワード
頭を働かせば働かすほど人は生命そのものから分離していく