やぎ座
ひたひた気配
コミットか、デタッチか
今週のやぎ座は、クライアントと向きあい仕事に励む精神分析家のごとし。あるいは、「静かで深いコミットメント」をめぐって試行錯誤していくような星回り。
村上春樹と河合隼雄の対談『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』では、日本社会というのはなかなか「個人」ということを体感としてわかるということは難しい社会なのだという話が取り上げられていました。
例えば、会社の同じ部署やチームなんかで、みんなで飲みに行こうというときに、断りでもしようものなら、おまえは付き合いが悪いと言われてしまう。つまり個人的な自由などというものは理解されない訳です。それは単にそうした付き合いの話に留まらず、会社や社会への貢献という点でも、全体的になにかとベタベタとコミットしている人が立派な人で、自分の考えで勝手なことをしていると、ろくに評価もしてもらえない、ということがどこのコミュニティでもいまだに糾弾されがちなのではないでしょうか。
一方で、その反動として何でもかんでも頑張ったり、コミットする人はバカだという態度が時にもてはやされたりして、私たちはともするとそうした両極端な態度の間を行き来しやすいのだと述べつつ、河合はそのどちらでもない「静かなるコミットメント」という第三の関わり方があるのだとして、その典型を精神分析家の中に見出します。
実際に自分が精神分析を受けてみて、いかに分析家の仕事というのはコミットメントなくしては進まないのだということが分かったが、それは一般的に考えるように「(相手のために)なんでもしてやろう」とか「頑張ってやろう」というのではなく、外見的にはむしろ中立的で、デタッチしている(関わらないようにしている)かのように見えるのだと。
29日にやぎ座から数えて「パートナーシップ」を意味する7番目のかに座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、頭だけでなく自分の全存在をつかってコミットしていくとはいかなることかをいかに学び、実践していけるかが問われていくでしょう。
マイヤー先生の思い出
とはいえ、いきなり素人が精神分析家の真似をしてもうまくはいかないでしょう。けれど、心理学や心理療法というものは、こと人に対する態度という点では、一部の専門家のものというより、みんなのものであるはずです。
例えば、河合の留学先の指導教官であったマイヤー先生は、来られた方が「私は学校へ行っていない」なんて言ってきたとすると、普通は「なぜ行っていないんですか?」とか「いつから行っていませんか」などと質問してしまって話が限定されてしまうところを、「行っていないんですか」と言うだけで、開いた姿勢で待っているのだそうです。
そのあとに、来られた方が自分の父親の話をしても、何も言わなくても、寝てしまってもいい。何ごとが起ころうとも、できるだけこちらから余計なことして、おのずと来られた方のなかで何かがつながっていくのを邪魔しないよう、ただそこにいたり、タバコを吸っていたりする。今週のやぎ座もまた、そういう向きあう相手のなかで起きていることの気配をひたひたと大事にしていきたいところです。
やぎ座の今週のキーワード
相手の心の奥底に釣り糸をたらしてボーっとすること